ところが後屈の程度が極端な場合は、子宮がすっかり折れ曲がった状態で、月経血の流出が妨げられることになります。このような状態ならやはり手術の適応になるのではないかと思います。というのは最近(注:平成8年当時)、当院でお産された若いお母さんが、国立病院のK先生に後屈の手術をしていただいた後、それまでひどかった月経痛が嘘のように消えてしまったと話してくれたからです。K先生は助手の若い先生に、「いいか、この手術は今ではめったに見られないから良く見ておけよ」と言われたそうです。
5.感受性の問題
初経、すなわち月経が始まった時からずっとつらい目にあっていると、デリケートな人は月経が始まりそうになるだけでパニックになります。実際には子宮が十分に発育し、これといった構造的な原因がないのに強い痛みを感じます。鎮痛剤もなかなか効きません。 このような場合、精神安定剤(注:今は抗不安薬と呼ばれています)が驚くほど効くことがあります。年中飲む必要はなく、月経が近くなり不安を感じ始めたら飲むと良いでしょう。安定剤の副作用は眠気ですが、最近眠気を抑えた薬も開発されてきました。胃腸に対しての負担も鎮痛剤ほどではありません。
いつかあらためてお話ししようと思いますが、自律訓練法もマスターするまで少し時間がかかりますが良い方法です。
6.子宮内膜症、子宮腺筋症
子宮内膜症は次の項で述べる子宮筋腫とともに、月経痛の原因となる最も有名な病気です。月経血のもとになる子宮内膜が、子宮の筋肉の中や卵巣、子宮の外側などで増殖し、子宮を大きくしたり(これを特に子宮腺筋症といいます)、卵巣の中にチョコレート状の血液を溜めたり、子宮の周りに癒着を起こしたりするのです。30~40歳代の女性に多く発症しますが、10代の高校生にみられることもあります。原因はまだはっきりしていませんが、月経血が逆流するために起きるとも考えられています。昔の女性は妊娠していることが多かったので、一生の間の月経の回数が今の女性よりも少ないため、子宮内膜症に悩まされることは少なかったのかもしれません。
子宮内膜症で子宮が大きくなる子宮腺筋症(注:現在では子宮内膜症と子宮腺筋症は別の疾患とされています)では月経血の量が増え、それだけ押し出すのに力が必要となります。また子宮もただ大きくなるだけでなく正常な形とは違ってきているため、同じ押し出すにもさらに力を必要とします。当然月経痛は激しくなります。また、子宮の周りの癒着は子宮が収縮するとき腹膜を刺激して、痛みはさらに強くなります。
(次回のブログに続く。なりゆきで、当初、話題にする予定のなかった子宮内膜症のお話をするはめになってしまいました。平成8年当時と現在とでは内膜症に対する取り扱いが違ってきていますので、そのつど「注」として解説します)