彼れを知り己を知らば百戦して殆(あや)うからず。
史上最高の兵法書といわれる『孫子』の中で最も有名な言葉です。我々医療者にとっては自分(施設も含む)の能力と患者さんの病状を正確に把握すればヤバイことにはならない、と解釈できます。一方、患者さんの立場で考えても、自分の病状とそれにしっかり対応できる医師(施設)を知ることが大事である、とも解釈できます。
では「彼れ」を知るためにはどうすれば良いのか? 孫子は語ります。
先知なる者は、必ず人に取りて敵の情を知る者なり。
事前に知るためには、信頼できる人によって情報を得ることが大事である。孫子はその「人」のことを「間(スパイ)」と表現しています。戦争ですから当たり前ですね。実際には、その病院で治療を受けた人からの情報、病院の看護師さんなどからの情報、あるいは自分自身、その病院に出向いて受付などの雰囲気を確認するといった手段があります。自分が医療を受けるのですからこのくらいはやっておいた方がいいでしょう。
百戦百勝は善の善なる者に非(あら)ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。
いくら何度も病気が治ったからといって、また別の病気になってしまうというのは愚の骨頂です。要するに病気にならないように日ごろから注意しろということです。
亡国は復(ま)た存す可からず、死者は復た生く可からず。
亡んだ国はもう立て直しは出来ず、死んでいった者たちは二度と生き返ることはない。孫子は兵法を説きながら戦争のバカバカしさを訴えています。
兵は拙速を聞くも未だ攻久を睹(み)ざるなし。
戦争を始めても早く切り上げろということです。学生のとき、麻酔科の高橋教授が最終講義で使った言葉も「拙速」でした。咽に物が詰まり呼吸が止まった人に遭遇したら、迷わす咽にボールペンでも刺して空気が入るようにしなさい。最高の処置ではないがしないよりもマシで、後から文句をたれる者がいたら自分が責任を持って弁護してやると。
其の来たざるを恃(たの)むこと無く、吾が以て待つ有ることを恃むなり。
備えあれば憂いなし。感染症はまさに細菌およびウィルス対人類との戦争です。ボーッとしていないで、ワクチンを受けるなりしてしっかり対策を立てておけということです。