佐野理事長ブログ カーブ

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第282回 忙酔敬語 クレソンの苦み

冷蔵庫を開けてみたらクレソンが一束入っていました。ちょっとしなびかけていたのでサラダにでもしようかとちょっと囓ってみたら、あまりの苦さに閉口しました。
食通は「クレソンは旨い」と言います。作家の邱永漢さんは、近所の川岸に野生化したクレソンが大発生しているのを発見して、欣喜雀躍したそうです。宮崎駿監督『風立ちぬ』に登場するドイツ人のカストルプもクレソン大好き人間でした。
正直言って私にはどこが良いのか分かりません。ひょっとして毒でもあるのかと危ぶみました。そう言えば、嫌がる子供にピーマンを食べさせてはいけない、子供はピーマンの苦みが毒だと分かっているからだ、と書いている本がありました。
私も小学生の中頃まではピーマンはダメでしたが、小学校5年の夏、七輪でこんがり焼いたピーマンに醤油をつけたところ、素敵に美味しかったので、以来、ピーマン好きの少年に変わりました。ある程度大人になると毒としての作用は減少するのでしょう。
猛毒のトリカブトは焙じることで無毒化され、生薬として使われています。クレソンも火を通したら解毒されて苦みも減るかと考え、バター炒めにしたところ、確かに苦みはマイルドになりましたが、今度はバターの香りが鼻につきました。ほうれん草とバターは合うのにクレソンはダメ、オリーブオイルにすれば良かったと後悔しました。
ほうれん草もシュウ酸というアクがあり、かるく茹でてアク抜きしないとエグくて舌にザラザラ感が残ります。シュウ酸は毒というほどでもありませんが、大量に食べると尿管結石の原因になります。
野菜として食べられている青菜などは、もともとある程度のアクや毒があったようで、品種改良されて現在にいたっています。
年配の方は(私の含む?)昔の苦いキュウリや青臭いトマトが懐かしいと言っています。皆さん、幼少のみぎりは「苦いキュウリはイヤ、トマトもイヤ」と言っていたくせに勝手なものです。
ついでに言うと、私は甘夏に品種改良される前の本当に大きな夏みかんが懐かしい。あまりの酸っぱさのために甘みはほとんど感じられませんでしたが、酸味を少なくすることで甘夏が誕生しました。若い皆さんはご存じないかも知れませんが、夏みかんは、それは大きく食べ応えがありました。砂糖をつけて食べる人もいましたが、私は、当時のスイカのように、チョッピリの塩で甘みを引き出して食べていました。
スイカも現在は甘々で誰も塩なんてかけていません。昔の北海道産のスイカは夏の終わり頃にやっと収穫され、皮ばかり厚く実は甘くありませんでした。皮が余りにも厚いので、母は白瓜のように糠漬けにしていました。これはサッパリしてけっこう旨かった。
『ダーウィンが来た!』によると、アフリカの人里に住むザンジバルアカコロブスというサルは野草の毒消しのために炭を食べるそうです。賢いサルだと番組では褒めていましたが、あまり旨そうではありません。たとえクレソンの毒消しでも食べる気もしません。
黒焦げは発がん作用があると言われていますが、純粋の炭は異物を吸収します。ウォッカは白樺の炭で濾過するためアルコール以外の味はしません。日本では芋焼酎など乙類の焼酎が人気を取り戻しています。それに対して甲類の焼酎に相当するウォッカの原酒は、よほどマズイのではないでしょうか。怖い物見たさで一度味わってみたいものです。