『君の名は。』の評判がやけに良いので、時間があったら映画館に行こうかなと思っていたら、「入れ替わりもの」と分かったので即中止しました。
日々、心身症の医療(心療内科)に従事している者として、心と体が入れ替わるだなんてバカバカしいにもほどがあると憤りを抑えきれません。
東洋医学では患者さんに対して心身一如として接しています。
日本の心身医学の創始者、見酉次郎先生は常々「心身一如をかかげる東洋医学に学べ」と言われていました。昔、郷久先生の企画で札幌に講演にいらしたとき、
「先生は実際に漢方を処方されているのですか?」と伺ったところ、
「漢方薬は使っていましぇん」と例の博多弁のなまりで答えられました。
残念なことに西洋医学ではいまだに心と体を別なものとして取りあつかう傾向があり、痛みを訴えても検査で異常がなければ「心療内科だね」ということになります。ところが心療内科をかかげるほとんどのクリニックの実態は診療内科ではなく精神科で、体の痛みに関しては対処できず、はなっから患者さんに触れることもありません。
本当の心療内科では、「どれどれどこが痛いのですか?」と患者さんに触れることから始まります。患者さんによっては触れられるだけで痛みが改善することもあります。
痛みの代表格の腰痛の研究で、近年、8割以上の患者さんが検査上では痛みに相当する所見がなく、心身症と判明しました。これは体育会系の整形外科の先生達にとってはショックな出来事でした。メンタルに関してはお手上げという先生が多いからです。
脳の扁桃体、大脳皮質の背外側前頭前野(DLPFC)、下垂体から分泌されるオキシトシンなどが体の痛みにかかわっているそうです。可愛らしい犬を飼ったら長年の腰痛から解放されたという報告もあります。
さて「入れ替わりもの」。今までこのテーマで多くの映画やテレビドラマが制作されてきました。中でも一番気色が悪かったのが、2007年にTBS系のテレビで放映された『パパとムスメの7日間』です。
男の臭いムンムンの舘ひろしさんにムスメの魂が乗り移り、
「パパのバカ!」なんて言ったときはザワッとしました。
パパのバカだけならまだしも、これからパパはトイレに行ったりシャワーを浴びたりするわけで、パパの体を見たムスメの魂は卒倒することでしょう。
ムスメの体に乗り移った舘ひろしさんの魂も、ムスメの生々しい体に接して、どうして良いのか途方にくれるはずです。
こんなことを書いていると、お前、やけにくわしいじゃないか、と突っ込まれるかもしれませんが、怖いもの見たさというヤツです。もう、こういったテーマの映画やドラマは見ないことにしています。
念のため、「心と体の入れ替わり」を信じている人がいるかどうか、YAHOOで検索してみたら、ほとんどの人が否定的な見解でした。ホッ‥‥‥。
でもアニメとしての出来映えは上々のようで、テレビで放映されるときが来れば見ようかなと節操もなく考えています。最近の映画館はコップコーンの臭いが充満していて吐き気がするので、『シン・ゴジラ』も見に行く気がしません。
第266回 忙酔敬語 『君の名は。』を見ないワケ