佐野理事長ブログ カーブ

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第254回 忙酔敬語 立ったり座ったり

HNKの「ガッテン!」。以前は「ためしてガッテン」でしたが、今年の春にリニューアルして「ガッテン!」と歯切れ良くなりました。内容は、山瀬まみさんが降板しただけでほとんど変わっていません。医学に関しての最新の情報があるときはできるだけ見ています。けっこうガサネタもあってだまされますけどね。
最近の注目はNASAのデーターにもとづいた(?)不老長寿の秘訣。長時間、宇宙に滞在した宇宙飛行士が襲われるのが、地上に戻ってからの体調の崩れです。まず立っていられなくなる。いくら宇宙ステーションで筋トレをしてもガックリ来るそうです。三半規管に存在する耳石が大きく関与しているとのことです。耳石は時々動かしてやらないと平衡感覚が麻痺してしまうそうで、地上でも2時間も座り続けていると、平均台を歩いて渡れなくなるという実験が放映されました。だからといって早死にするとはあんまりですが、自分の記憶を頼りに書いているので、聞き忘れていたこともあるのでしょう。
とにかく1時間以上座り続けていると寿命が22分縮むそうです。それを防ぐには30分に1回、立ち上がる動作をすれば良いとのこと。
へえっ、本当かなあ。自分の生活を振り返ってみました。医師のなかでも内科や精神科の先生は座り続けることが多いと思います。それに対してわが産婦人科診療では、30分以上も座り続けることはまずありません。産科の診察ではまず座ってエコーで赤ちゃんの様子を観察します。それからあらためてお母さんに現在の状況や今後の見通しなどを説明する。場合によっては内診台で診察する。婦人科でも更年期障害以外の患者さんはただお話を訊いて薬を処方するということはなく、ほとんどエコーで確認する。そんな調子ですから産婦人科医が長時間座り続けるということはまずありません。
内科の研修医の先生にも訊いてみたら、とてもお行儀の良い先生で、患者さんが診察室に出入りするときは必ず立ってドアの開け閉めをしているとのこと。これってどっかで聞いたことがあるぞ。
作家の下田治美さんが脳外科の手術を迫られたとき、なかなか納得のいく説明をしてくれる医師がいなくて、人脈などを頼りに探し求めた結果、やっとある大学病院の脳外科の名医に出会った。アメリカ留学をした経験のある先生で、アメリカのオフィスのドクターがやっているようにドアを開いて下田さんを診察室に招き入れました。この動作で下田さんはしびれてしまったそうです。この体験を下田さんは著書『やっと名医をつかまえた 脳外科手術までの七十七日』(新潮社)で書いていますが、私はテレビでのインタビュー番組を見ただけ。下田さんみたいな患者さんが来たら日本の医者は大変だなあと思いました。アメリカでこうした治療を受ける患者さんは言うなればセレブです。医療費も莫大で、その結果、一人の患者さんにはタップリ時間をかけられます。当然、患者さんは満足します。日本では、こういう言い方は語弊がありますが、多くの患者さんを一定の時間内でさばかなければならない。待たされる患者さんも大変ですからね。
私も原則として座ったまま患者さんを案内しますが、さすがにお年寄りや赤ちゃんを抱いているお母さんに対してはドアの開け閉めをします。皆さん、この程度の心遣いで喜んでくれます。当院の場合これが限度です。申し訳ありませんが‥‥‥。