里見清一著、幻冬舎新書。今年読んだ本の中でも秀逸でした。私が日頃、考えていたことが全て網羅され、これほど現実の医者の仕事についてキッチリ書かれた本はありません。
私と同じことを考えていると言っても、里見先生は私よりもはるかに勉強家で、一つ一つの意見の背景に英文の文献を紹介して、単なる思いつきではないことが分かります。
また、なかなか慎重な方で、私が不用意に第247回に名指しで『週刊現代』の悪口を書いたのに対して、K社が出している「週間G」と周到です。「週間G」に関しては第十六章「名医とはなんぞや」で以下の小目に分けて容赦なく攻撃しています。
エッチな週刊Gのテキトーな「名医リスト」に私の名前があったらしい
私とは正反対の治療方針で私を評価する週刊Gの信用できない名医情報
取材依頼時に掲げた大テーマが記事では消えていた週間Gの無節操
ねっ、表題だけ見ても過激でしょ? ただし、あくまでも「週間G」です。私のブログを読んだ患者さんが、「よくも大胆に書いたもんですね」と感心してくれましたが、里見先生はさらに容赦がありません。しかし「週間G」ですからね。私と同意見だから安心しましたが、名指しで書いた自分はマヌケだったと感じ入りました。
最終章「医者の将来」に書かれた項目のいくつかを紹介します。
1年間3000万円、5000万円かかる薬の相次ぐ登場と日本の医療保険制度
どう考えたってこれからの医者の仕事は「死なせること」
意識不明で身寄りのない老衰患者に人工呼吸、輸血、透析、集中治療をする現代
医者に「治す」ことは時々できても「和らげる」「慰める」ことはナースの方が上
いずれやってくる「医学部は出たけれど‥‥‥」時代
この本は「中高生の親御さんで、子供を医学部に進ませる予定の方」を対象に書かれているようですが、私のような医者の方が読んでタメになります。今まで何となく感じていたことをはっきりと示してくれているからです。
私も産科医療をめざして札幌医科大の産婦人科に入局しましたが、癌で亡くなっていく患者さんにかかわって、「死なせること」の大切さを思い知りました。そして、この経験がその後の人生に大きな影響をおよぼしています。
最後に里見先生に注文。先生はどうも短気なようで、マヌケな電話がかかってくると怒鳴りつけるようですが、それだけは止めた方がいいですよ。