開院して間もなくの頃(多分17、8年前か・・・)、新しいスタッフの歓迎会で、副院長だった私は軽率にも次のような宣言をしました。
「皆さんは当院のお宝です。また皆さんのお子さんも皆さんの宝物です。そんな大切なお子さんたちを預けて安心して働ける施設を確保することを今年の目標とします」
当時、当院のまわりは薬局も歯科医院もなく空き地ばかり。しかし、若い人たちが住み着きだし、お産の数も急上昇し、子供たちの数も増えて小学校が新設されるほどでした。そこで、おそらくそれらの空き地にも私設の託児所が出来てスタッフの幼子の面倒をみてもらえるはずだと、実にあまい皮算用をしたのでした。みんなは喜んで拍手パチパチ。その後の1年で私の信用は失墜しました。
最近では、外来に小さな託児コーナーを設けて、お子様づれのお母さんが気軽に受診できるように配慮した産婦人科のクリニックも現れるようになりました。残念ながら当院では今さら託児コーナーなど設置する余地などなく、開業のままの状態です。そのため幼いお子さんを抱っこしながら受診するお母さんが多数います。
しかし、居直るわけではありませんが、私はそれで良かったと思っています。お子さんの様子からお母さんの状態や家族の様子などをうかがい知ることができるからです。子供たちが少しくらい騒いでもかまいません。それに対するお母さんの対応も治療の手がかりとなります。本人を見ただけでは分からないことは多々あります。
くたびれ果てているのにいつも幼子を抱っこしている患者さんは、ご家族の協力が十分に得られていないことが分かります。お子さんがいなければ気づかないことです。お子さんが生き生きしていれば、お母さんがかなり頑張っていることが分かります。「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、逆に家族(森)を見て患者さん(木)が見えてくることだってあります。お子様づれだと大きなヒントになります。だからお子様づれ大歓迎なのです。第一可愛らしい。そして面白い。
私の顔を見て怯える子は、ワクチンにこりているケースがほとんどです。ところが逆にスリスリと近寄ってくる子がいます。
「ひょっとしてこの子はワクチンが好きなのですか?」と訊くと、
「実はそうなんです」
べつにM(マゾ)というワケではなく、ただコワイもの知らずという、いたって健全なだけのこと。もちろん怯えるのも個性の範囲です。でも、家庭環境が何となく伝わって来ます。虐待といった大げさなことではありませんよ。あくまでも個性の問題。
妊婦健診のたびにその辺の椅子をガラガラと押す男の子。私のお腹も診てと可愛いポンポンを出す女の子。お母さんのお産も一か月検診も終わり、そんな子たちに会えなくなるとチョッピリ寂しく感じます。職員もそんな個性的な子供を見るのが大好きです。
てなワケで、外来全体が託児所と思ってくださればありがたいと思っています。
ここでちょっと待ったです。絶対にお子様づれはおすすめできないクリニックがあります。不妊症専門クリニックです。一人の子でさえ恵まれず、あせっている患者さんたちにすごい目で睨まれたと、ほうほうの体で戻ってきたお母さんがいました。もっとのどかな病院を紹介して、その後、めでたく第二子を得ることができました。
第195回 忙酔敬語 お子様づれ