四十過ぎの患者さんからよく受ける質問です。あまりにも頻繁に受けるので、またかと思って、ちょっと笑って、からかいます。患者さんには気の毒ですけれど・・・。
「確かにそうかもしれませんが、それがどうしたって言うんですか? 女性だったら若死にしなければ誰でも更年期になるし、更年期を過ぎればいつかは必ず死にます。だから更年期も死も特別なことではないんですよ」
「でも、更年期障害ってみんな言うじゃないですか。本当に大丈夫なんですか?」
「更年期障害で治療が必要な人は十人に一人もいないんじゃないでしょうかね。更年期障害になった女性は大騒ぎするから目立つんで、ほとんどの女性は何となくチョットほてったかな、といった程度で更年期をとおりぬけていくもんですよ。ウチのスタッフにもそろそろ更年期に入ってきた人が何人かいますが、なにも言っていませんよ」
さいわいにも横についていたベテラン看護師Nさんもニコニコしながら頷いてくれました。ここで「先生、そんなことありませんよ」と言われたらぶちこわしです。
「更年期障害でつらくなったら、それは我々の仕事ですから症状に応じて治療します。だから心配しないでください」
しかし、こんな質問をする患者さんの多くは何らかの心配をかかえています。それが体調不良の原因となっているのですが、患者さん自身は気づいていません。その辺のところを確認すると納得してくれます。
まだ、生理も順調に来ている患者さんはホルモン補充療法の適応ではありません。もっと納得してくれるために、正常とは分かっていながら希望に応じてホルモン検査をすることもあります。昔は「必要ありません!」と青臭いことを言っていましたが、今は「ハイハイ」とやっています。
検査でそろそろ閉経かなという患者さんでも、ホットフラッシュや発汗といった特有の症状がなければホルモン補充療法は、ほとんど効きません。うつ症状にも効くと言われていますが、うつ症状だけなら抗うつ薬の方が手っ取り早く効きます。
ホルモン補充療法は血液中のコレステロールを下げ、骨粗鬆症の予防にもなります。学会でもそうした成果が発表されていますが、患者さん自身はちっともラクになっていないのに、ただそれだけのためにホルモン治療をするのはいかがなものかと思います。
製薬会社の説明でもそうした副効用を強調しています。しかし、こう言っては悪いのですが病気喧伝(びょうきけんでんDisease Mongering )という気がします。病気に対する不安をあおりたてて治療や薬の売り上げを伸ばすことです。当直のとき、サプリメントのコマーシャルをよく目にしますが、本当に効果があるのかなあ、といった商品ばかりです。
更年期に入って調子の悪くなる女性は今に始まったことではなく、江戸時代から実母散という薬が売られていました。今でも2,3のメーカーから発売されています。命の母もよく売られています。私は、このような薬でも効く女性はけっこういるんではないかと考えています。それで効かない人が病院に来るわけで、「命の母なんて効かないよ」と口をひん曲げたりしません。
ホルモン補充療法も、汗がボタボタたれている女性には本当に良く効きます。というわけで、ホルモン治療を全否定しているのではありません。
第190回 忙酔敬語 私、もう更年期ですか?