「陰陽太極鍼法」とは、痛い部分と反対側の穴にほんのチョコッと円皮鍼などで刺激をする鍼治療です。たとえば左側の下腹部痛を訴える患者さんには右上背部に円皮鍼を貼るのです。ポイントは痛みが一点に集中していること。あまり広範囲だと漢方薬の方が向いています。原則として鍼治療は痛い部分にしますが、婦人科領域の場合は「そんな所に刺すの!」と患者さんが嫌がります。そこで「陰陽太極鍼法」の出番となります。こんな簡単な治療でも驚くほど即効性があります。帯広の吉川正子先生を中心として行われていますが、一般の鍼灸師の先生方には意外に知られていません。昨年、全日本鍼灸学会で腰痛の効果に関して発表しましたが、なかなか理解してもらえず、さんざんたたかれました。自分の土俵でなければダメだなと反省しました。
そこで今年は「婦人科領域の機能性下腹部痛に対する円皮鍼の効果」というお題で婦人科部門に応募しました。しばらくして学会本部からメールで「慢性疼痛」のセッションで採用されたと通知が来ました。その後、送られてきた抄録集には「不定愁訴」の一般口演に掲載されていました。プログラム委員もどこに入れようかと悩んだんでしょうね。「産科」、「不妊症」、「骨盤位」のポスター発表の場はあり、さらに「不妊症と鍼灸治療」というシンポジウムまでありましたが、婦人科の痛みに関する演題は私1人だけでした。ですから産婦人科関係には入れようがなかったようです。
結論から言うと「不定愁訴」の仲間入りにされて正解でした。興味ある演題を訊くことができたからです。西洋医学では解決しない患者さんが、悩んだあげく鍼灸治療で救われたといった演題がほとんどでした。私の持論ですが、「不定愁訴」にはワケがあります。私の発表も含めてすべてワケがありました。こういった症例は本来心療内科のあつかうところですが、あきれたことに心療内科でもダメだったという発表もありました。鍼灸では患者さんの訴えを、痛い部分など体中を触れながら治療します。いわゆる「手当て」の原点です。治療時間は1時間近くかけることもあります。その間に患者さんは原因となったワケを話すのでしょう。鍼灸の先生もそのワケをじっくり聞きます。そうしているうちに、だんだんと良くなっている様子がうかがい知れました。
ただ、そのワケを治療者自身も気づかず、「原因疾患のない不定愁訴に対する鍼治療の1例報告」という演題もありました。発表を聞いているうちにワケとなるエピソードがワンサカ出てきました。おそらく気づいてはいたのでしょうが、原因=ワケとは受け止めなかっただけかもしれません。
いじめをきっかけに歩行障害や声が出なくなった症例報告には感動しました。中学生の多感な男子生徒が2年以上にわたっていろいろな施設で治療を受けます。遠方(自宅から約2時間半)の大学病院で治療を受けていて、やや手応えがあったものの自宅近くでの治療も必要と鍼灸治療院に紹介されました。治療にあたったのは優しい女性の鍼灸師さん。こんな先生にスキンシップされながら治療されたら、年頃の男子は良くなるはずだよな、と思いました。主治医の小児科の医師も共同演者として参加されていました。この先生も良い感じの人で、これらの連携治療を受けられて少年は幸運でした。
さて、来年の全日本鍼灸学会は札幌で行われます。テーマは「鍼灸治療と連携医療」です。小児科に限らず、こういった演題が集まればなと思ったことでした。
第180回 忙酔敬語 「不定愁訴」に対する鍼治療