炭水化物ダイエットをはじめて1年あまり。当初76㎏だった体重は8㎏減って現在68㎏でキープされています。これも夏井先生のベストセラー『炭水化物は人類を滅ぼす』(光文社新書)のおかげです。この本に触発され、家での米食、パン、麺類はできるだけ煎り大豆に切りかえて無理なくダイエットを続けています。ただし煎り大豆にも炭水化物はある程度含まれ、当直に出た食事はパン以外はすべて平らげているので(目の前に出たお米のご飯の誘惑には勝てません)完全に炭水化物を排除しているわけではありません。宴会ではデザートにも手を出しています。残すのはもったいないしイヤミですから。
病院食で、昼がカレーライス、当直の夕飯が米食、明けも米食、そしてその日の昼が長崎チャンポンと炭水化物のラインナップが続くと、1㎏近く体重が増えます。おそらくご飯に含まれる水分やチャンポンのスープも関係していると考えられますが、炭水化物おそるべしです。ちなみに当院のラーメン系はそんじょそこらのラーメン屋よりもグーです。
さて、炭水化物は本当に人類を滅ぼすのか? 夏井先生のセンセーショナルなタイトルに疑問を抱いています。ダイエットのためには確かにひかえるべきですが、エネルギー源である食物としての有用性は大したもんだと思います。最近、テレビである食品について(何だか覚えていませんが)「カロリーが少なくてヘルシーです」と小耳にはさみ、カチンと来たことがありました。食物はカロリーを摂るためのものです。カロリーが高い方がすぐれた食品と言えます。カロリーを摂りたくなければ食べなければよろしい! ダイエットに成功しているため、つい上から目線になってしまいました。ハラが減るのは確かにツライ、よく分かります。そこで炭水化物を脂肪やタンパク質に置き換えると、空腹にもならずに不思議と体重が減るのです。少なくとも夏井先生と私の体験で実証済みです。
新大陸が発見され、トウモロコシやジャガイモといった災害に強くて炭水化物を効率よく産生する農作物を得てから世界の人口は爆発的に増加しました。私のうろ覚えですが、トウモロコシは中国の人口を倍増させ、ジャガイモはアイルランドの人口を倍増させました。昔、アイルランドでの学会に参加したとき、ステーキに添えられた山のようなフライドポテトにゲンナリしました。現地の人はチップスと言っていました。目を白黒させて何とか平らげましたが、横のテーブルで食事していた男性が「モア、チップス、プリーズ」と追加注文したのには唖然としました。その後、アイルランドだけではなく、イギリス人もフランス人もチップス大好きと知りました。ジャガイモはヨーロッパを救ったのです。
夏井先生は本来、人間は肉食であると書いておられました。様々なデーターをあげてそれなりに説得力がありました。私が人間は肉食であるという説を初めて読んだのは『ガリヴァー旅行記』でした。巨人の国で身体検査を受けたガリヴァーは歯の構造から肉食動物と判断されました。犬歯の存在から判断されたのでしょうが、実際は穀物をすりつぶす臼歯が圧倒しています。作者のスウィストの風刺の目は当時のイギリスの上流階級に向けられていたのでそんな結論を出したのでしょう。霊長類がどんな物を食べているのかを調べてみたら、人間に近い類人猿ではチンパンジーはたまに狩りをして肉を食べますが、ゴリラやオランウータンは完全なベジタリアンです。肉食一辺倒は一番原始的なツパイまでさかのぼらなくてはなりません。そして歴史上、人類が穀物から受けた恩恵を考えると炭水化物はエライとしか言いようがありません。ただし摂りすぎは禁物です。
第171回 忙酔敬語 炭水化物はエライ!