私の知るかぎりでは札幌市の母子手帳は日本で一番の大きさです。平成23年からいきなり2倍の大きさになりました。それまでは愛知県と神奈川県がトップでした。里帰り分娩のお母さんの母子手帳を見て、「大きくて老眼のオレの目にピッタリだな」とうらやましく思っていました。それが2倍です。今度は大きすぎて多くの妊婦さんに不評でした。保健センターの保健師さんに会ったとき、「皆さん、大きすぎて邪魔だと言ってますよ」と文句をたれたら、「内容が充実しています」と胸を張っていました。ひょっとして保健師さん達も目が遠くなったのではと穿った見方をしていたら、「妊娠中の経過(2)」の10ページと11ページの欄がずれていることに気づきました(私の表現力では実際に見てみないと分からないかもしれませんが)。「そら見たことか」と思っていたら翌年から改訂版が出ました。こんなミスでもけっこうお金がかかったはずです。でも人間のやることですからしかたありませんけどね。
確かに保健師さんが言ったように中身は充実しています。赤ちゃんの発達、ワクチンのこと、働く女性・男性のための出産、育児に関する制度の解説など。「もうすぐお父さんになる方へ」では夫婦そろっての妊娠体操を図入りで解説しています。さらには赤ちゃんとの関わり合いや遊び方まで書いてあります。本当にいたれりつくせりです。
1ヵ月健診で受診した若いお母さんが心配そうに「赤ちゃんが熱を出したときはどうすればいいんでしょうか?」と訊きました。そのときはちょっと時間に余裕があったので、「母子手帳を読んだことあるかい?」とききかえしたところ、「あまり読んでない」という返事。どれどれとばかり母子手帳をめくると、83ページに「子どもの病気とけが」と
いう文章を見つけました。
〈子どもは、感染症にかかったり、やけど、けが、誤飲などの事故にあったりすることも希ではありません。いつも子どもに接している保護者が、子どもの様子が「普段と違う」「どこかおかしい」と感じたときは、よく子どもの状態を観察しましょう。心配な点がある場合には、かかりつけ医に相談しましょう。
●医療機関への受診について
呼吸が苦しそう、ぐったりしている、何度も吐く、けいれん、意識を失うような症状が見られた場合には、必ず医療機関を受診しましょう。医療機関を受診する際には、子どもの症状、その変化、時間をメモしておきましょう。また、母子手帳にはこれまでの重要な記録があるので、必ず持参しましょう。
医療に関する相談窓口は、107ページを参照してください。〉
ところが107ページはほとんど白紙で105ページの間違いと分かりました。さっそく保健所の母子手帳の担当者に電話をかけました。「ちょっと母子手帳を開いてみてください」と指摘しました。「申し訳ありません。確かに間違いでした」。いつもはスタッフから「字が読めない」とかクレームを受ける身ですが、たまにクレーマーになるのも悪くないなあとテンションが上がりました。「あなたのおかげで母子手帳のミスを見つけられました。どうもありがとうね」と妙な展開になりました。お母さんは赤ちゃんの病気の心配を相談したのに「この医者は嬉しそうにしている」と不思議に思ったことでしょう。
とにかくお母さん方、母子手帳はしっかり読んでくださいね。
第128回 忙酔敬語 札幌市の母子手帳