佐野理事長ブログ カーブ

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第114回 忙酔敬語 炭水化物をひかえてみたら

昨年の暮れ、冬物のスーツを着ようとしたら、30年近く前に買ったダブルのスーツしか入らなく、ちょっと焦りました。体重は76㎏になっていました。今まで1ヵ月に10㎏近く減量したことは何度もあるので、いつでも落とせるさとたかをくくっていました。そしてウカウカしているうちに2月の末から3月1日まで、学会などで人前で講演する予定が目白押しになっているのに気づきました。学会でダブルのスーツは滑稽です。
そこで大いに役立ったのが夏井 睦 著『炭水化物が人類を滅ぼす』(光文社新書)。新聞の書籍広告欄で見たときはアヤシゲな本が出たもんだと思っていましたが、2月9日の朝日新聞の「売れてる本」コーナーに紹介されているのを見て、さっそく購入して読みました。冒頭、著者は炭水化物を断つことで何の努力もしないで6ヵ月で11㎏の減量した体験談を語っていました。夜は野菜炒めに焼き魚をおかずにして糖の入っていない焼酎を好きなだけ飲んでいるとのこと。また、血糖が上がらないため糖尿病が撲滅することを熱く述べていました。
これまで炭水化物を断つことで糖尿病が治るというウワサはかねがね聞いていました。しかし、私は、つわりなどによって食事で炭水化物を取れなくなると尿にケトン体が出てくるので、この方法は危険ではないかと考えていました。糖尿病が重症になるとケトアシドーシスといって血液に毒性のあるケトン体が増加します。ケトン体は糖が利用できず脂肪を分解した結果に生じる物質です。そこで私は妊娠糖尿病の患者さんに糖尿病のことを説明するとき、「糖尿病はインスリン不足のため、クリーンなエネルギー源である炭水化物を利用できない状態ですよ」とお話ししていました。しかし、夏井氏はタンパク質によって、脳や赤血球に必要なブドウ糖は十分に合成されると強調していました。これは基礎医学の常識で以前から私も知っていました。これでケトアシドーシスの件は納得。
3年前、当院で治療していたうつ病の患者さんが妊娠したところ、ヘモグロビンA1cが6以上もあり総合病院へ紹介しました。もともと糖尿病のため内科で治療を受けていて、A1cが12というとんでもない時期もあったそうです。それが半年前から体重はさほど減らないのにA1cは5と正常になり治療をやめたそうです。「本当かいな?」と不思議に思っていました。最近、抗うつ薬の処方のため受診した際、「ひょっとして炭水化物はとっていないの?」と訊いたら、そのとおりとのこと。ここに至り納得は確信となりました。
ただし問題が一つ残りました。タンパク質が糖に代謝されると、残った窒素によって尿素窒素という物質が生成されます。腎臓の働きが悪いと尿素窒素が体内から排出されないため危険な状態になります。もともと腎臓の働きが正常な人では心配ないようですが、腎不全の人はタンパク質は制限しなければなりません。『炭水化物が人類を滅ぼす』では腎不全の話題には触れていません。それが残念です。
さて、その後の私ですが、2月23日の学会までに体重は2㎏近く減少して何とかシングルのスーツが入りました。そして現在72kgです。これ以上やせると患者さんから佐野はガンではないかと思われそうなので今後は現状維持とします。この方法は、スイーツの好きな女性はツライでしょうが、私にとっては実にラクチンです。なんせ炭水化物以外は何を食べても良いのですから。コーン以外のナッツはOK。夕食はお米のご飯の代わりに豆腐。空腹感はまったくありません。今では時々、甘い物にも手を出しています。