院長ブログ カーブ

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第99回 忙酔敬語 虫の命

「きゃっ! 虫っ! 先生、何とかしてっ!」。ベテランの助産師がさけびました。この助産師は、普段は肝っ玉がすわっていて、私が判断に迷ったときも適切なアドバイスをしてくれる実に頼りになるオネエ様です。それなのに虫には弱く、かわいらしいハサミムシがウロウロしているだけでパニックを起こすんですなぁ。なぜか女性は虫が苦手で、「虫めづる姫君」みたいな人はメッタにいません。「風の谷のナウシカ」も虫をこよなく愛しましたが、あの子は実在の人ではなく、アニメの世界のヒロインでしたね。
助産師が期待したのはティッシュでくるんでひねり潰すことでしたが、私にはできない相談です。結局、虫をソッとつまんで窓を開けて外に逃がしました。手で虫をつまもうとしたとき、オネエ様は、「えっ、直接触るの?」とまた騒ぎ立てましたが、意に介しませんでした。どうせ、この寒空、いずれは凍え死んでしまうのでしょうが、ひねり潰すなんてできません。何だか偽善者みたいでしょう?
私も子供のころはご多分にもれず、チョウチョの羽をむしったり、蜂をなぶり殺したり、それはムゴイことをしておりました。そんなある日、学習雑誌の附録の偉人集にシュヴァイツァー博士のエピソードが載っているのを読みました。博士は部屋にまぎれ込んだハエや蚊を外に逃がしてやったというのです。心のひねた少年は、「ケッタクソ悪い偽善者だなあ」と思いました。
当時、世間では尊敬する人物のトップはシュヴァイツァー博士でした。私の友人でもシュヴァイツァー博士にあこがれて医学部に進んだ男がいました。野口英世も偉人のなかではトップクラスで、ご存じのように今でも千円札に描かれています。しかし、近年、お金にルーズな人と分かり、人物としての評価がやや下がっています。そう言えば五千円札の樋口一葉も生涯お金に苦労しました。ついでに一万円札の福沢諭吉も借金魔の石川啄木にかえたら面白いのではないでしょうか。いようっ、日本銀行、イケてるぞ!
私の悪いクセで話が横道にそれてしまいました。
子供のころは、残酷なダークの面を持っていた私ではありましたが、医学部を卒業して医師になった途端に善人に変身しました。婦人科のガンの末期の患者さんにかかわるようになり、命の尊さが身にしみるようになったからです。
むかし、ディズニーのショートアニメで、普段はアリさえ踏まないように気をつけて歩く善良な男(演じたのはグーフィーだったかな?)が、車に乗った途端、人格が変わって攻撃的な運転をするというコメディーがありました。アリを見つけてハッと避けるシーンには、「そんなバカな、大げさな表現だなあ」と笑ってしまいましたが、命の尊さが身にしみてからは、自分もアリの群れを避けて歩く人間になりました。
当院のまわりは、ほんのわずかですが自然が残っており、ハサミムシをはじめ、クモやダンゴムシも院内をウロウロしていることがあります。そんな虫たちを心優しい私はいつも窓を開けて外へ逃がします。
除菌除菌とやたらに騒ぎ立てるコマーシャルがありますが、私はアレにも反感を覚えます。別に細菌に対して愛を感じてるワケではありませんよ。細菌類は人間の腸内などにも存在して、消化機能を助けています。いろいろな生物となかよく共存するといったフトコロの深い生き方をしたいものです。