離乳食が始まるころ、昼間はニコニコと機嫌良く過ごしていた赤ちゃんでも、夜泣きをするようになります。おそらく昼間の体験などがゆがめられた形で夢に現れるのではないかと考えられていますが、くわしいことは分かっていません。
日中、子育てや仕事で疲れているお母さんとお父さんにとっては、赤ちゃんの夜泣きは寝不足の原因となり、本当にまいります。基本的には赤ちゃんを抱っこして「大丈夫よ」と言いながらあやしてあげればよいのですが、体力的に限界があるかもしれません。私も2人の子どもがいますが、2人ともよく泣きました。そんなとき漢方を飲ませましたが、よく効きました。適応症に「夜泣き」、「小児夜啼症」と記載されている漢方は5種類あります。甘麦大棗湯、柴胡桂枝加竜骨牡蠣湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、小健中湯です。どれでも同じように効くというわけでなく、その子に応じた薬を飲まさなければなりません。
私の長女には甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)が効きました。風邪をひいていてコンコン咳をしているのにグッスリと眠ってしまったため、「ちょっと効きすぎたかな」と心配になるほどでした。甘麦大棗湯は甘草、小麦、大棗(ナツメ)からできています。まるで食べ物のような薬ですが、ビックリするくらい効くことがあります。エキス剤をココアを溶くように少量のお湯で溶いて小さじで飲ませます。けっこう甘いので甘い物が好きな子に向きます。
柴胡桂枝加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は次女に効きました。比較的体力のある子に向きます。大人でも夜中に目を覚ますと、その後、眠れなくなるという人に、目を覚ましたとき飲むようにと処方すると、「よく眠れた」と喜ばれることがあります。睡眠導入薬を夜中に飲むと、朝からボーッとして生活に支障をきたしますが、この方法だと朝はすっきりと起きられます。
抑肝散(よくかんさん)は、最近、認知症のお年寄りのイライラによく効く薬として有名になりました。「肝」とは漢方では自律神経の興奮をあらわす用語で、肝臓のことではありません。したがって神経の高ぶりを抑えるという効能を意味しています。日頃、イライラして体力のない子に向きます。このような場合、お母さんもイライラしているので「母児同服」といって、お母さんにも飲んでもらいます。
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)は抑肝散に胃の調子をととのえる陳皮と半夏を加えた薬です。抑肝散よりも食欲のない子に向きます。
小健中湯(しょうけんちゅうとう)は虚弱体質の改善のための薬です。じっくり治すのが目的なので、これまで紹介した漢方ほどは即効性はありません。水飴や大棗(ナツメ)、甘草が入っているので、甘くて飲みやすい薬です。日頃、風邪をひきやすく、お腹をこわしやすい子に最適です。
宇津救命丸も夜泣きの薬として有名です。400年の歴史があるそうで、昔の人も夜泣きには悩まされていたようです。私も2人の娘に験しましたが、それなりの効果はありました。ちょっと高価ですが、病院を受診する余裕がないときに飲ませてみてもいいでしょう。さきほど紹介した漢方薬は、病院で処方してもらうと保険がきくので安く手に入ります。
第9回 忙酔敬語 夜泣きと漢方