院長ブログ カーブ

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第88回 忙酔敬語 私、ぼく、オレ

9月1日は当院の開院記念日です。9月6日に某ホテルで開院パーティーをしました。パーティーのはじめは院長の挨拶です。これがイヤなんですよね。私が院長になったのは当院が法人化した平成11年でした。最近はずうずうしくなりましたが、当時はあがり性で、メモを見ながらでないと話ができませんでした。また、かなり気負っていて自分のことを「私」と言っていました。
これにはワケがあります。高校生のときに読んだ三島由紀夫の文に「大人の男子たる者は自分のことを『わたし』と言うべきで、『ぼく』は子供のことばである」といった内容が書かれていたからです。当時、三島由紀夫はもっとも美しい日本語を書く作家と言われ、『文章読本』(中央文庫)という本まで出していました。三島の小説は私の仲間の間でもよく読まれていて、私が高校2年のとき、あの有名な割腹自殺をはたしました。私は三島のことは本当は好きではありませんが、文章の書き方はお手本だと言われていたので無視することはできませんでした。かといって、私の文章が三島ふうだと言ったらお笑いぐさですね。私が影響されたのは「わたし」だけです。「私」の正式な読み方は「わたくし」で、これでは堅苦しすぎるので、「わたし」と書かれていたのでしょう。今でも多くの文筆家は「わたし」と書いています。しかし、近年、「わたし」という読み方もOKになったため、私は、「わたし」と読まれることを期待して「私」と書いています。何だかこんがらかってきましたね。ではどうして「わたし」ではなく「私」にするかというと、せまいブログでは「わたし」は平仮名のなかに埋没して読みにくくなるからです。それに2字の分だけ文章を短くできます。そういえば「魚」の訓読みも、もともとは「うお」だけでしたが、同じ頃から「さかな」もOKになりました。
患者さんとお話しするときも、開院当時は格調高く(?)、自分のことを「私」と言っていました。しかし、本来、私は患者さんと距離をとるのがヘタクソで、だんだんボロが出て、「ぼく」となり、最近では自分でも呆れたことに、気づいてみたら「オレ」と言うようになってしまいました。さすがにすべてのシチュエーションで「オレ」と言っているわけではありませんよ。長年通院していて距離感をはぶいた方がよい患者さん、若くて堅苦しいことが苦手そうな患者さんなどの診療においてです。場合によっては「私」が復活することもあります。これに対して中途半端な「ぼく」の時代は短かったですね。それでもたまには使います。
「オレ」を使うようになったきっかけは、日本良導絡自律神経学会(鍼灸を電気生理学的に勉強する学会)で知り合ったH先生の影響でした。沖縄出身のH先生は繊細な神経の持ち主ですが、会話で興に乗ってくると公衆の面前でも「オレ」が飛び出します。私はそれを好ましく思いました。「私」を使うべきシチュエーションでも「オレ」も悪くないなあと感じました。しかし、これはH先生の人柄が良いからでしょうね。
以上、「アンタ、いったい何が言いたいの?」みたいなことを書いてきましたが、私が診療で患者さんと接するなかで、失礼のないように、そうかといって堅苦しい雰囲気にならないようにと、いかに気を使っていることを言いたかったのです。しかし、はたから見ていると、とても神経を使っているようには感じられないようで、そばについている看護師さんたちをハラハラさせています。