院長ブログ カーブ

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第86回 忙酔敬語 毎日が心療内科

最近、心身医学関連の学会に参加してみて気になったのは、参加者が一頃より減っていること、そして、演題が心身症というより、うつ病を中心とした、むしろ精神疾患に関するものが多いということです。
心療内科の日本のパイオニアである故九州大学名誉教授、池見酉次郎先生の数ある著書の中でもロングセラーの『心療内科』(中央新書)には、副題として「病は心からの医学」と書いてあります。これはすべての疾患に応用されるべき考えです。心身症は原因不明の難しい疾患ととらえられがちですが特別な病気ではありません。ほんのチョットでも心に配慮するだけで、患者さんは安心します。
最近、高島俊雄先生の『お言葉ですが・・・』シリーズなどの著書にハマっています。先生は中国文学者で、明るくタメになるエッセイを多数お書きになっていますが、言葉には実にうるさく、こわい人です。高島先生は、五十をなかばすぎたころから左耳の鼓膜の奥に水がたまる奇病に悩まされていました。はじめに行った耳鼻科医に「なんでもありません。どうしても気になるなら一度神経科でみてもたったらどうですか」と言われました。そんなバカなことがあるかと、証拠をとるためにわざわざMRIをとりに整形外科へ行きました。すると耳の中に蟹の泡みたいなムクムクグジャグジャしたもんがいっぱいうつっていました。「そうれ見ろ」とその蟹の泡が特別よくうつっているのを一枚を借りうけて、意気揚々と大津日赤病院の耳鼻科へ行ったら、若い可愛らしい女医さんが耳のなかをのぞいて、「何もそんな大きな写真を持ってこんかて、見たらわかります。ようこんなにたまるまでしんぼうしやはりましてねえ」と言ってくれた時は、涙が出るほどうれしかったそうです。これは心身症ではありませんが、医療者の態度の模範例として紹介しました。
私は、不正出血、下腹部痛、更年期障害などで受診した患者さんには、必ず「最近、何かツライことはありませんでしたか?」と訊くことにしています。私にとって診療は、まず心身症ありきです。病気には必ず原因があります。たとえ原因不明でも原因がない事はありません。ただ分からないだけなのです。体調を崩す原因の多くはストレスです。その辺の所をまず確認しなければならないと考えています。
心身医学のパイオニアの先生達は、いろいろな病因を調べ上げたすえに、はじめて心身症の存在を発見しました。東北大名誉教授の九嶋勝司先生は更年期障害を研究し、ホルモン補充療法が無効な症例から心身症の存在を突き止めました。東邦大学名誉教授の筒井末春先生は脚気の研究を進めて心身症の発見をしました。こうなると心身症の診断は難しいぞと身を引くかもしれません。産婦人科領域の心身医学のパイオニアの一人の菊川寛先生は、「私は心身症という疾患は存在しないと思っています。神経症やうつ病の患者さんが身体症状を訴えた状態を、心身症と言っているだけです」とまで言っておられました。
以上の偉大な諸先生に反論するのもおこがましいのですが、私はすべての患者さんに対して必要なのはまず心理面での配慮だと考えています。身体疾患をすべてチェックしてから心身症と診断するのは時間と費用の浪費で、患者さんにも負担がかかります。
ではガンなどの命に関わるような病気があったらどうするのか? 高島先生を診察した若い可愛らしい女医さんが言ったように、「見たらわかります」。さらに言えば、ガンの患者さんこそ、心のケアが必要なのです。