院長ブログ カーブ

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第77回 忙酔敬語 様子を見る

「ちょっと様子を見てみましょう」。医師がよく使うことばです。私も時々使います。ただし少し居直って、「いいですか、これから医者の一番とくいな言い方をしますよ。ちょっと様子をみてみましょう!」。診断ははっきりしないが危険な状態ではなく、自然に良くなりそうな場合に用います。
産科は、小児科、麻酔科、その他の外科系とともに「様子を見る」ことが出来ないケースに遭遇する診療科です。「様子を見て」いるうちに患者さんの状態がみるみるうちに急変することがあるからです。内科でも循環器内科は、心筋梗塞などの急病を対象にしているので「様子を見て」はいられません。その他にも「様子を見て」はいられない診療科はあるでしょうが、今の私の頭には思い浮かばないので失礼させてもらいます。
妊婦さんが出血や腹痛などで受診すると必ずエコーをして、子宮口の状態をチェックしなければなりません。また、臨月に入っていれば、赤ちゃんが元気かどうか、お母さんのお腹に赤ちゃんの心拍をモニターする装置(分娩監視装置)をつけて20分ほど観察します。それで問題なければ「様子を見る」ことになります。
この赤ちゃんの心拍の連続モニターに関しては、最近まで産科医によって様々な解釈があり、どのような状態なら「様子を見て」良いのか、あるいは赤ちゃんが危険な状態でただちに帝王切開をしなければならないのか、判断に苦しむケースも少なくありませんでした。しかし、2年前から親切にもガイドラインが作成され、どのくらい「様子を見て」良いのか、産科医、助産師ともども共通の知識として対応ができるようになりました。
高血圧の診断は、内科ではいろいろな状況で測定してから慎重に判断します。産科では妊娠高血圧症候群(以前は妊娠中毒症といっていました)といって、急激に妊婦さんはもちろんお腹の赤ちゃんも状態が悪くなることがあるため、ゆっくり考えているヒマがありません(内科がヒマだと言っているわけではありませんよ)。ただちに入院してもらい、場合によっては帝王切開をしなければならないこともあります。
7月に入ってから、帝王切開を予定していた妊婦さんの容態が急に悪くなったため緊急に帝王切開したことがありました。また、午後3時に帝王切開予定の妊婦さんが朝方から産気づき、はじめは陣痛も弱いのでそれこそ「様子をみて」昼休みに帝王切開する方針に変更しましたが、痛みがどんどん強くなり、うめき声を上げ、しかも出血もしてきたので待っていられなくなり、午前中の外来診療を一時ストップして緊急帝王切開したこともありました。子宮口ははやり5㎝も開いていました。2例とも明らかに「様子を見て」いられる状態ではありませんでした。
いろいろな事情でお産をやめて、婦人科の患者さんだけを診療するようになった諸先生たちの共通の感想は、「産科をやめてラクになった」ということです。「様子を見る」ことが許される状況になったからだと思います。
「病気が治るのは患者さん自身の力で、医師はそのお手伝いをしているのにすぎない」という言葉があります。確かにその通りだとは思います。しかし、「様子を見て」いられないときにお手伝いをして、その成果が報われることほどウレシイことはありません。この喜びのために私たちは日々頑張っているのです。