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第62回 忙酔敬語 夫立ち会い分娩

大学病院での夫立ち会い分娩は、郷久先生が札幌医科大学の産科のチーフだったときに始められ、当時としては草分け的な存在でした。日本では昔から夫は廊下でじっと赤ちゃんが生まれるの待っているのが常識とされていました。また、産婦さんの多くが「こんな姿を夫に見せたくない」と思っていたようです。何だか「鶴の恩返し」みたいですね。
欧米では夫立ち会い分娩は当たり前で、お産のときに一緒にいないと「愛してない」ということになります。2002年の日韓共同のサッカー・ワールドカップの際、フランスのジダン選手が夫人の出産に立ち会ったため日本への出発が遅れました。その影響でスケジュールと調整に無理がたたり、とうとう肉離れを起こしてしまった。それに対してわれらが高倉健さんは、たとえ親が死のうとも仕事優先で人に迷惑をかけるのをよしとしなかったそうです。ポリシーの問題ですからどちらが良いとも言えません。
郷久先生は学究肌で、夫立ち会い分娩を希望する夫婦の心理テストをしたり、分娩後の褥婦さんの心身の回復を心身症研究班の若手(当時)に調査させたりしました。予想どおり夫立ち会い分娩をした褥婦さんの産後の経過は一人分娩の褥婦さんよりも良好でした。それを産婦人科心身医学会(現、日本女性心身医学会)でその若手が発表したところ、某大学の名誉教授から「そんな毛唐のマネをしくさって‥‥‥。それにたったそれだけの数字で有意差が出たとは片腹痛いわ」とステキなコメントをいただきました。
当院を開業したころは夫立ち会い分娩を希望する夫婦は大学のように心理テストをしていましたが今はしていません。していないどころか子どもでも友人でもほとんどフリーパスです。立ち会い分娩で一番感動するのはやはりご主人で、中には涙を流す人も少なくありません。お子さんは意外にしっかりしていて、3歳と5歳の可愛らしいお姉ちゃんたちが横から「ママ、頑張って」と言ったり、小学生の男の子が「あっ、お母さんから血が出てる」などと冷静な反応をしたりしていました。
私の友人である札幌医科大学准教授の遠藤先生が、フィンランドのヘルシンキ大学に視察に行ったとき帝王切開も見学しました。そのとき、麻酔科医とおぼしき男性が産婦さんに熱いキスをしているのを見て、「フリーセックスとは聞いてはいたが、何と開かれたことか」と驚嘆したそうです。しかし、あとでその男性は夫で、フィンランドでは帝王切開でも夫立ち会いをしていることが分かりました。(本当はフィンランドがフリーセックスの国というのは誤解らしい。)
当院でもイギリス人のご主人が当然のごとく帝王切開での立ち会いを希望したのをきっかけに、日本人でも希望すれば夫立ち会い帝王切開をするようになりました。それこそ「毛唐に許可して日本人に許可しない」のはいかがなものかと考えたからです。さすがに普通分娩より少なくはありますが、最近は増える傾向にあります。皆さん、撮影などして喜んでくれています。ただし、術場は清潔を前提にしているので、立ち会いはご主人だけとしています。お子さんがチョロチョロしていては、こちらも気が気ではありません。
最後にひと言。喜びは一人よりも二人の方が倍増し、苦しみや悲しみは一人よりも二人の方が半減します。そのような理由で不幸にも妊娠中期でお腹の赤ちゃんが亡くなったお母さんに対しても、ご主人にお願いして立ち会ってもらっています。