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第53回 忙酔敬語 扁鵲(へんじゃく)と六不治

東洋医学と西洋医学では病態に対してのとらえ方について大きな違いがあります。そのため西洋医学を学んだ後で、東洋医学に接すると腰が引けてしまう医師が多いようです。しかし、伝説的な名医である扁鵲の言葉を知ると、東洋医学の考え方も荒唐無稽ではないことが分かります。
編鵲については司馬遷の『史記』の列伝に記載されています。それによると春秋時代の末期の晋の実力者である趙簡子(趙鞅)の治療をしたかと思えば、つぎの時代の戦国時代に現れたりして、年代的にも無理があり、実在性そのものが疑われています。しかし『史記』の扁鵲伝には有名な(といっても東洋医学に馴染んでいる人たちにですよ)六不治が載せられているので紹介します。

1.おごり高ぶって理を重んじない。
2.身体より財物を重視する。
3.衣食が適当でない。
4.陰陽と五臓の気が一定しない。
5.身体が衰えて薬が飲めない。
6.巫(みこ)を信じて医者の言葉を信じない。

以上の六つで、その一つでも持っている人は治療しにくいというのです。
1,2,3は分かりますね。これらが守られていないと治る病気も治りませんし、メタボにもなりかねません。4は私にもサッパリ分かりません。ここが東洋医学の分かりにくい所ですが、とにかく難病らしいですね、そういうことにしておきましょう。5に相当する患者さんは現代医学によって点滴などで対処することができそうです。6は『孫子』の「鬼神に取るべからず」に似ていると思いませんか。中国では紀元前数世紀から迷信と医学の分離を説いていたのです。
「忙しくて、ゆっくり休むことができない」という患者さんに対しては「『健康よりお金にこだわる人は治すことができない』と昔の名医が言ってましたよ」とか、冷え症なのに薄着をしてアイスクリームを食べている若い女性に対しては「『服装や食事が適当でない人は治すことができない』と昔の名医が言ってましたよ」と、一時、私は扁鵲の受け売りをしていたことがありました。ここでまた思い出したので明日から同じことを始めるかもしれません。
1の「おごり高ぶって理を重んじない」人は患者さん以前の問題で、はじめからお近づきになりたくありませんね。扁鵲は古代の諸侯を相手に治療していたのでこんな条項を始めに持ってきたのではないでしょうか。きっと気苦労が絶えなかったでしょうね。この一文で扁鵲の人間味がうかがわれます。やはり実際に存在したような気がします。そうして各地で診療したあげく、秦に行ったときにその太医令(国家の医官の長)である李醯(りけい)にねたまれて殺されてしまいました。名医の最期はあわれなものでした。