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第5回 忙酔敬語 葛根湯医者 

「葛根湯を多めに処方して欲しいのですが」という患者さんが受診されました。昨年の秋、頭痛のため更年期障害かと思い当院をはじめて受診されました。そのとき高橋先生が処方した葛根湯がとても良く効いたというのです。葛根湯は風邪の薬として有名ですが、
寒気、後頸部のこり、無汗という3つのポイントをおさえると、風邪以外にも頭痛、乳腺炎、目の炎症、中耳炎など様々な疾患に応用できます。
古典落語で「葛根湯医者」という演目があります。「頭が痛いのですが」「はい、葛根湯をおあがり」、「お腹が痛いのですが」「はい、葛根湯をおあがり」、「付き添いで来ただけなのですが」「まあ、いいから葛根湯をおあがり」といった調子で、ヤブ医者の代名詞のような紹介をされています。
葛根湯は、葛根、麻黄、桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草の生薬から構成されています。これらの生薬を加減することで、本当に葛根湯医者のようにいろいろな病気に対応することができます。
麻黄は、葛根湯の生薬の中で最も強い薬で、発汗によって熱を下げる作用がありますが、動悸などの副作用があります。私も以前、インフルエンザに罹ったとき、葛根湯を飲み過ぎてドキドキして気分が悪くなったことがあります。その麻黄を葛根湯から除くと桂枝加葛根湯という処方になります。
桂枝加葛根湯は葛根湯を飲むとドキドキするが、それでも後頸部のこりがあり、汗はかいても脇の下にわずかに出る程度といった人に向きます。葛根は葛湯や葛菓子に用いられることで知られていますが、生薬としては後頸部のこりを取る作用があります。桂枝加葛根湯から葛根を除くと桂枝湯になります。
桂枝湯は風邪をひくとそれ程高い熱は出ないが、体がだるく汗がダラダラ出るという人に使われます。桂枝湯に含まれる芍薬の量を増やすと桂枝加芍薬湯になります。
葛根湯以下は主に風邪に使われていますが、桂枝加芍薬湯はお腹の薬です。芍薬は腸の痙攣を抑えるため、お腹がしぶって痛いといった状況に桂枝加芍薬湯が使われます。桂枝加芍薬湯に水飴を加えると小健中湯になります。
小建中湯は虚弱児の体質改善に用いられます。乳幼児の夜泣きに効くこともあります。
葛根湯に含まれる芍薬と甘草だけを合わせると芍薬甘草湯になります。芍薬甘草湯は急激に起きる筋肉の痙攣にともなう痛みに使われます。私は時々眠っているときこむら返りで目を覚ますことがありますが、芍薬甘草湯を飲むと2,3分で痛みが止まります。生理痛に効くこともあります。
漢方薬はふつう、2,3種類以上の生薬を組み合わせて構成されていますが、甘草湯は甘草だけで成り立っています。適応症としては喉の痛みをともなう激しい咳とされていますが、腹痛や各種中毒など、突然生じた様々な疾患に頓服的に使われていました。江戸時代の旅人は印籠の中に甘草を入れていたそうです。
以上、葛根湯の構成生薬を使いこなすことで、様々な処方ができることが理解できたかと思います。現在は生薬を加減しなくてもそれぞれ医療用のエキス剤があるので便利になりました。