院長ブログ カーブ

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第44回 忙酔敬語 映画「のぼうの城」

原作(もと脚本でのちに小説化)よりも映画の方が良かったなあという例の一つだと思いました。もっとももと脚本ですから当たり前のことかもしれません。本当はもっと早く映画化される予定だったのですが、昨年の3.11の震災のため遅れたそうです。確かに城に対する水攻めのシーンが2度も出てきて、津波に遭遇した人ならフラッシュバックを起こすのでないかと心配になりました。それだけ迫力がありました。
時代は戦国末期。豊臣秀吉の北条攻めで、北条の枝城の一つ「忍城」に籠もる500人の城兵と城下の百姓に対して石田三成に任された二万の軍勢がせまります。対する「忍城」の総大将は成田長親。大男のデブで城下の農作業を見物するのが大好きで百姓の仕事のじゃまばかりしているため、でくの坊をもじって「のぼう様」と言われています。この長親、小説では表情も乏しくどこかつかみ所がないのですが、野村萬斎によって納得できる主人公になりました。やはりデブではダメです。クライマックスは水攻めのためににっちもさっちもいかなくなった城内から長親が舟で敵の寸前まで漕ぎ着けて田楽踊りをするシーンです。唄といい踊りといい野村萬斎以外にはとうてい出来ない見せ場です。卑猥な踊りに敵も味方も囃子声をたてて盛り上がりますが、三成は雑賀衆の鉄砲撃ちに命じてこれを狙撃します。長親は肩を撃たれて人工湖にザブンと落ちますが、家老の正木丹波によって救われ何とか城内に引き帰りました。この丹波は「忍城」の実質的な指揮官ですが、佐藤浩治が好演しています。さて、愛する「のぼう様」を撃たれた百姓衆は逆上します。三成の命で堤を築いた百姓も地元の百姓で「のぼう」を愛しています。そこで堤を築いた百姓の数名が堤に穴を穿ち、たちまち堤は崩壊します。長親は堤の外の衆も本当は味方と信じて田楽踊りをしたのでした。
野村萬斎をはじめて見たのは、1994年のNHKの大河ドラマ「花の乱」ででした。この「花の乱」、現在放映中の「平清盛」と同様に評判が悪かったのですが、私には応仁の乱という得体の知れない時代が理解できてけっこう楽しんでいました。野村萬斎は東軍の総帥、細川勝元役でテレビ初出演でした。西軍の総帥は萬屋錦之介演ずる山名宗全、そして足利義政が市川團十郎でした。当時まだ28歳の野村萬斎はこの二大スターに負けない存在感を示し、私はすっかり感心してしまいました。野村萬斎の知名度が上がったのは、さらに3年後のNHK朝ドラの「あぐり」の吉行エイスケ役からですが、私には細川勝元のほうが衝撃的でした。古典芸能をみっちりと仕込まれた人間はつくづく違うなと思いました。
映画「のぼうの城」はエンディングもしっかりしていて、最後に字幕が流される背景に現在残っている三成の築いた堤の跡が紹介されているため、劇場内が明るくなるまで立つ人はほとんどいませんでした。
チケットを購入する際、受付嬢に「何か割引になるような物はありませんか」と訊かれ、以前、ゲオのカードが有効だったのを思い出し、慌てて財布の中を見ましたがそれらしき物はなく、しまいには名刺などすべてお姉さんの前に広げたところ、お姉さんは目ざとく車の免許証を見つけ、「お客様、シニアですから1000円となります」。「ヤッター!、でも俺もそんな年か」とちょっと複雑な気分でした。今回は「のぼうの城」に始まり、野村萬斎を褒め称え、最後はショボイ話となりました。