Mさんにはちょっと困っていました。「うつ」で5年近くも治療しているのになかなか良くならず、精神科へ紹介しようかとも考えていましたが、Mさんはあくまで当院での治療を希望されているのでした。Mさんは他にも喘息や蕁麻疹もあり、内科や皮膚科で治療を受けているのですが、それもさっぱり良くならないとのことでした。そんなある日、ご主人がいらして総合診療科のある大学病院を紹介して欲しいと来院されました。渡りに船とはこのことです。さっそく紹介状を書きました。書いてるいるうちに薬の処方ばかりで、じっくりとお話を訊いていないことに気づきました。Mさんの様子が暗いので、あまり突っ込んだ面接は避けていたのかもしれません。大学病院の先生はお二人からよくお話を訊き、心の交通整理をしてくれました。そして2,3回の通院で、また、当院での治療を希望されて来られました。「Mさん、ご主人とはなかよしさんだったんですね」と言うと、「はい、世界で一番好きです」とにっこり笑いました。ご馳走さまです。それから調子はどんどん良くなり、薬の量も減り、パートの仕事も出来るようになりました。
私が札幌医大の産婦人科に入局して1年目のとき、郷久先生の指導のもとで流産の後に抑うつ状態になった患者さんを診たことがありました。その頃はまだ良い薬がないので絶食療法までしました。ご主人の理解もあり治療は順調で、翌年には無事に赤ちゃんを産むことが出来ました。夫婦なかよしで、ご主人が心配して一緒に受診されるケースはその後の経過が良いと、心身症学会の北海道地方会でも発表したことがありました。はじめのケースも地方会で発表しましたが、私の初めての学会発表だったので緊張してガクガク震えていました。ウブだったですね。
逆に夫婦の関係性が悪いと病状はなかなか改善しません。また、うつ病や不安障害の原因が夫婦の関係性の悪さにあることだってあります。いくら他人が「なかよくしろ」と言っても、いったんイヤになれば、箸を持つ手の様子までイヤになるものです。そうなると我慢すればするほど状態は悪くなるばかりで、もう離婚するしかありません。ちょっとやり過ぎたかもしれませんが、私が離婚をすすめたご夫妻もいます。2年後にその女性にデパートでばったり会いましたが、新しい出会いがあったのかお腹は大きくなっていて幸せそうに笑っていました。
最近、不安障害で治療していた患者さんの状態が不安定になったので薬を変えたことがありました。つぎの受診時には晴々とした顔をしているため薬が効いたのかを思いました。すると「私、離婚したんです」とサバサバとした調子で言いました。「今、『夫婦なかよく』というブログを書いているんだけど、あなたのことも書いていいかな」と尋ねると「全然いいですよ」とあっけらかんと答えてくれました。
ここで提案するのが結婚前の同棲です。以前、NHKの「クール・ジャパン」という番組で、日本人の結婚に関して外国の人たちがクールかクールではないか討論するのを見ました。そこで問題になったのは、日本人の出会いから結婚するまでの時間があまりにも短いことでした。「相手のことを2,3ヵ月でよく分かりますね」と呆れていました。ヨーロッパでは1年以上同棲してから結婚を決めるのが常識だそうです。なるほどなと感心しました。そこで周りの人にも同棲をすすめてみましたが、「親が許してくれない」という答えがほとんどでした。なかなか難しいですね。
第41回 忙酔敬語 夫婦なかよく