院長ブログ カーブ

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第358回 忙酔敬語 参耆甘草湯 

ジンギカンゾウトウと読みます。私の調合した漢方薬です。参耆とは人参と黄耆のことで、両方とも元気をつける基本的な生薬です。人参は「五臓の気を補い、裏虚に適す」、すなわち消化器などの機能を高め食欲増進作用があります。黄耆は「肺気を補い、表虚に適す」、体表のバリアを高め風邪の予防となり、また汗がダラダラ出るのを押させます。
人参と黄耆を含む漢方薬を参耆剤と言い、代表的な処方として補中益気湯、人参養栄湯などがあります。わりと新しい、と言っても900年ほど前に作られた薬です。それよりもさらに1000年前に作られた葛根湯や小柴胡湯などよりも構成生薬が多くなっています。
大昔の単純な処方は短期決戦勝負のために作られ、後世の処方はそれでもダメなんだよな、というような病態のために工夫されました。
補中益気湯は、黄耆、人参、朮、甘草、当帰、陳皮、升麻、柴胡、大棗、生姜の10種類の生薬から構成され、もともとは風邪が抜けきれず、微熱が続き、寝汗もかく、という場合に用いられました。すなわち黄耆と人参などで体力をつけ、柴胡で体に残った邪を省き微熱を取り去るのが目的でした。しかし、疲れた人が飲んでもそれほど外れはないので、医王湯と称されるほど有名な薬となりました。また、黄耆、升麻にはエネルギーを上に持ち上げる作用があるので、胃下垂や子宮下垂にも用いられました。
補中益気湯が向く人は、覇気がなく、目尻が下がり、肌が汗で湿っているので一見して分かります。いつも元気で赤ら顔の人も疲れ切ると顔色が悪くなり目尻がさがるので、そんな場合、2,3回飲むと元気を回復します。でも疲労だけなら柴胡は必要ありません。
人参養栄湯は、人参、黄耆、朮、茯苓、甘草、桂皮、当帰、芍薬、地黄、五味子、遠志、陳皮の12種類の生薬で構成されています。人参、黄耆、朮、茯苓、甘草でパワーアップをはかり、当帰、芍薬、地黄で栄養を体のすみずみまで行きわたれさせます。そして五味子、遠志、陳皮で痰などの呼吸器症状を改善します。風邪が抜けきらないで痰が出て軽い咳がコンコンと出る人に最適です。漢方の製薬会社が疲労倦怠の薬として販売に力をそそいでいますが、私が試しに飲んでみたところ、五味子の酸っぱさが気になって俺には向かないな、と思ったことでした。ただし、酸っぱいのが大好き!という女性は2,3日で疲れが取れたと喜んでいました。
以上、いわゆる参耆剤にはいろいろな生薬が含まれていますが、何でもかんでも入っていれば良いってもんではありません。よけいな生薬は足を引っ張ります。私は必要最低限の生薬で構成された漢方薬が好きです。
そこで思いついたのが「参耆甘草湯」。人参と黄耆の粉末が主体です。疲労困憊という観点からすると切れ味抜群と考えました。ただし人参と黄耆の粉末は既存の漢方エキス剤に加えなければ保健がききません。自費となり十割負担になります。さてどの漢方エキス剤にくっつけようかと考えた末にクラシエの甘草湯が浮かび上がりました。クラシエの甘草湯の適応は「激しい咳、咽頭痛の緩解」となっていますが、甘草は葛根湯をはじめ多くの処方に含まれ、全体のまとめ役の働きもします。ですからジャマにはなりません。1日量は人参末(紅参末)3.0g、黄耆末2.0g、クラシエ甘草湯2.0gとしました。粉が苦手な人はゼリーに混ぜるなどして工夫して服用してもらいます。現在、3人の患者さんに処方していますが、どんな結果が出るか楽しみです。