佐野理事長ブログ カーブ

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第349回 忙酔敬語 チョコレートとココア

漢方薬を得意としている医師や薬剤師は、葛根湯や桂枝湯など「湯」という語尾がつくエキス剤について、「お湯にとかして漢方薬の香りを楽しみながら飲んでください」と指導しています。さらに「粉のまま飲むということはインスタントコーヒーを粉のまま飲むのと同じことです」と言いそえます。
葛根湯や桂枝湯には桂枝(桂皮、シナモン)という生薬が含まれていて、アロマセラピーの効果も期待できます。私も粉薬が飲めないという患者さんには同様のことを言ってきました。しかし、中には「シナモンの香り?! もっとイヤです」とさらに拒否られることもあります。この香りや味についての嗜好は処方する上で大事なことです。その生薬が患者さんに合わない可能性があるからです。処方が患者さんにピッタリ合うと、呉茱萸湯といった苦くて飲みにくいベストファイブに入る薬も「香ばしくてキライじゃありません」と意外にあっさりと飲んでくれます。
香りはともかく粉薬は絶対にイヤ、という患者さんのために数社のメーカーが抜け目なく錠剤やカプセルの漢方薬も発売していますが品ぞろえが不充分です。こんなときに私の言うセリフ。
「あなたの病気はたかがそんなもんなんですか?」
かなり意地悪な言い方ですね。医師・患者関係がさらに悪化するのではと反省しています。
最近、「お湯にといて香りを楽しむ」という行為についてチョッピリ疑問を持つようになりました。確かに本格的な煎じ薬では香りプンプンですが、エキス剤をといても期待するほど香りは出ないことに気づいたからです。いくら上等のインスタントコーヒーでも引き立てのコーヒーにはかないません。いっそ粉その物を舐めた方がインパクトがありそうです。舐めたことはほとんどありませんが・・・・。
たまにですが、クタクタに疲れたとき、私は十全大補湯というエキス剤を飲みます。シナモンの香りと甘草の甘さが癒やしを与えてくれます。いつかお湯にといて飲んだことがありますが、エキス剤をそのまま口に放り込むよりも香りや味が薄いことに気づき、以来、粉のまま飲むようになりました。
そして、先月、東洋医学シンポジウムで雑談していたおり、ハタと思いついたことがありました。みなさん、チョコレートとココア、どっちが好きですか? まあ、好みはいろいろあるでしょうが、味や香りについてはチョコレートの方がココアよりもしっかりした味でインパクトがありますよね。薄めのココアを飲むとなんだかわびしくなります。
昔、休暇でパリを訪れたとき、カフェでのんだココアの濃厚さに感動しました。チョコレートを飲めるギリギリの濃度まで溶いたという感じでした。自分でも作ってみようと、板チョコを砕いて牛乳と一緒に小鍋でゆっくりと焦げつかないように湯煎したところ、パリと同じような濃厚なココアが仕上がりました。
昔の漢方家の座談会で「不眠に用いられる酸棗仁湯は意外に効かないねえ」というコメントがありましたが、昔の煎じ薬を1日に2,3回分散して飲ませるよりも現在のエキス剤を2包まとめて寝る前に飲んでもらった方がよっぽど効くようです。最近、高齢の不眠患者さんの治療としてちょっとしたブームになっています。