佐野理事長ブログ カーブ

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第34回 忙酔敬語 更年期障害と思ったら

64歳の女性が更年期障害ということで受診されました。閉経は51歳で、更年期はとっくに過ぎています。「体がほてり汗が出る。とにかくだるくて疲れる」と言うのです。「いつ頃からですか?」と尋ねても「3,4日前だったか2,3年前だったか」はっきりしません。「どんなときに疲れますか?」と尋ねると「縫い物などに集中した後です」と答えるので、眼精疲労かなと考えましたが、目を使わなくても疲れるそうでした。うつ病も考えましたが、落ち込んだ様子もなく、良く眠れているとのことでした。娘さんと一緒に来たというので娘さんを呼んでもらいました。娘さんも途方にくれているようで、「内科の病院を受診したが、看護師さんの予診の段階で、とりとめのない事を言うため更年期障害だから婦人科に行っては」と言われたとのことでした。取りあえず血圧を測ってみました。驚いたことに上が227で下が180もありました。脈拍は65/分とゆっくりで精神的に緊張しているためではなさそうでした。これだけ血圧が高ければ色々な症状は出るものです。「内科だったら血圧ぐらい測れよな」と軽い憤りを覚えながら循環器専門病院へ紹介状を書きました。お父さんは脳卒中で亡くなられたそうで、「おじいちゃんも血圧が高かったみたいです。原因が分かって安心しました」と娘さんもホッとした様子でした。
49歳の女性が「ほてりと発汗」のために受診されました。6ヵ月前から生理が不順で典型的な更年期障害と思われましたが、目つきが鋭いというか目力があるというかちょっと気になったので、女性ホルモンの他に甲状腺ホルモンの検査もしました。そしてホルモン補充療法用の経皮パッチを2週間分処方しました。5日後に検査結果が届きましたが、閉経のパターンでもあり甲状腺機能亢進症(バセドー病)のパターンでもありました。2週間後に患者さんが再診で来られました。はたしてホルモン補充療法はさっぱり効いていないようでした。バセドー病は比較的若い女性に多いのですが、40~50代でも発症します。患者さんのお父さんも50歳を過ぎてからバセドー病になったとのことで納得されていました。甲状腺専門の上条先生のクリニックへ紹介したところ、2日後に「診断:バセドー病」との返事をいただきました。甲状腺はとくに腫れてはいませんでしたが、目つきが決め手でした。私は患者さんの顔をマジマジと見ることにしていますが、これが良かったようです。
大学病院にいたとき、月間出張として1年の間、毎月4日間、奥尻に行っていました。まだ大津波の来る6年ほど前で、のんびりして良い気分転換でもありました。48歳の女性が「ほてって口が渇く」と言って受診されました。ほてりは更年期障害の特有な症状ですが、口が渇いて水を多量に飲むというのは異常でした。糖尿病になって高血糖になるとそういった症状が出るので糖の負荷試験をしてみました。はたしてガチンコの糖尿病でした。重症の糖尿病では、糖の負荷試験そのものが患者さんの病状を急激に悪化させることがあるので、糖の負荷試験は禁忌で、あやしければその場での血糖検査にとどめておくべきと後で知り、冷や汗ものでした。さいわいにも患者さんは何事もなく、無事に内科の先生へお願いすることになりました。
更年期には、更年期障害以外にもメタボリックシンドロームのような様々な病気が発症します。われわれ産婦人科医も、他科の疾患についての基礎知識を忘れてはいけないと常々いましめています。