院長ブログ カーブ

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第339回 忙酔敬語 膝を読む

医者のサガで患者さんやそのご家族を見るとき、普通じゃないところに目がいきます。
妊娠反応が陽性に出た若いお母さんが受診しました。ご主人とお父さんに抱っこされた2歳にもならない女の子と一緒。本人は血色も良く元気そうでしたが、おちびさんは鼻水を垂らしていました。そしてそのお父さんはやせていてジーンズがゆるゆる。胃腸が弱いと判断しました。超音波検査をしたところ子宮のなかに1㎝にもみたない小さな赤ちゃんがいて心拍もしっかりしていました。
「ちょっと下腹が痛いんですけど大丈夫ですか?」お母さんは心配そうに訊きました。
「一番気になるのがお姉ちゃんの鼻水、つぎがお父さんがやせていること、お母さんの下腹の痛みは子宮が大きくなっている症状ですから3人の中で一番心配ありませんよ」
診察台で患者さんを診るとき、下半身の状態がイヤでも目に入ります。4,5人に1人はすねのあたりにアザがあるので「どこかにぶつけたんですか?」と訊きます。そそっかしい人はもちろんですが、倉庫の仕事をしている人はよくぶつけるので、生活の状態もある程度推察することができます。
この1年で気づいたのが膝の状態です。両膝が足の裏のようにゴワゴワと硬くなっている中年の患者さんがいたのでので例のごとく「何かあったんですか?」
「2年前に娘のお産に立ち会ったんですが、そこは畳でのフリースタイルでした。2日もかかりました。その間、膝をついて娘の腰をさすっていたら、こんなになってしまいました。娘も四つん這いのお産だったので、わたしよりも痕が残っています」
ということは昔の日本人の膝はこんなもんだったんだ。そう言えば、子どもの頃、お風呂に軽石はつきもので、かかとが厚くなっているのをこすり取っていたっけ、ついで肘や膝にも使うと聞いたことがあったけど、こうなった場合だったんだ、と半世紀以上にもなってモヤモヤしていた疑問が解決しました。私の子ども時代はちゃぶ台からテーブルと椅子の生活の過渡期で、おかげさまで私の膝は無事でした。
その後、先ほどの女性よりもりっぱな膝を発見したので確認するとお茶の師範をしているとのこと。なるほどね・・・。
保育園で膝をついて子どもの相手をしている保育士さんも、軽度ではありますが膝が角化しています。
かように膝を読むことで患者さんの生活背景をより深く理解することができるようになりました。「そんなことを知ってどうするんだ」と言われるかもしれませんが、情報は多いにこしたことはないのです。背景に疲労がひそんでいる可能性だってあるからです。
最近、北海道で発見された化石がティラノザウルスの尾骨の一部と判明されました。私にはただの石っころにしか見えませんが専門家が見ると分かるんですね。中型のティラノザウルスで、巨大化するメカニズムを解明するための重要な資料とのことでした。
膝の角化もその人を知るための化石に負けないくらい重要な資料です。それを臨床家がどう判断するかで利用価値が左右されます。
そうそう、ただ膝の角化を見ているだけではダメですね。気になるは人はケラチナミンといった尿素剤をつけるとよくなるそうです。私も10年以上も前、背中の老人性乾皮症でもだえ苦しんだとき皮膚科の先生に処方してもらいました。よく効きました。