院長ブログ カーブ

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第334回 忙酔敬語 わたしの好きな文章家

高島俊男先生の『お言葉ですが・・・別巻7 本はおもしろければよい』(連合出版)が届きました。昨年の出版なのに最近そのことを知りあわてて取り寄せました。ご高齢のためこれがシリーズ最後とのこと。確かに力を出し尽くした感がありました。
高島先生は私の拙い文章の師匠です。はじめの師匠は丸谷才一先生でしたが、丸谷先生がエッセイの中で高島先生のことを絶賛していたので、『お言葉ですが・・・』シリーズを読んだら実におもしろい。『お言葉ですが・・・』はもともと週刊文春に10年にも渡って連載されたエッセーで、言葉に関する話題をユーモアと辛口で提供してきました。1年分をまとめて単行本に、その数年後に文春文庫となって第10巻まで世に出回りました。私が読んだのはもちろん文庫本です。文庫本は〔あれからひとこと〕コーナーがあり、本文では語りつくせなかったことをつけ加えて、さらに充実しており、単行本よりも値段はもちろん、内容としてもお得です。書店で見つけしだい購入しましたが、第5巻が見つからない。アマゾンで手に入れたところ原因が推察できました。〔あれからひとこと〕で、今でも活躍している有名な国語学者について「よくそんな浅薄な知識で、あつかましく・・・」と容赦なく切り込んでいたからです。文春もよく出版したと思いました。その後、この文庫本は絶版となりました。シリーズそのものも10年で文藝春秋の手からはなれて、連合出版から「別巻」として出版されるようになり7巻で終了となったのでした。
高島先生は本来、中国文学の研究者です。その文献の読み方はハンパでなく、その実力は『三国志 きらめく群像』(ちくま文庫)にかいま見ることができます。ご自身、オレがいままで書いたなかで一番おもしろい本ではないか、と言われているだけあって実に読みごたえがあります。これを読んだら他の「三国志」はバカバカしくて読む気になれません。中学生のとき、子ども向けの「三国志演義」のダイジェスト版を読んだことがありましたが、悪者の曹操率いる「魏」が「赤壁の戦い」などでコテンパンにやられても、ますます勢力が増強するので不思議に思ったものでした。しかし、この本で曹操の偉大さや「魏」は当時の中国の主要な地域を独占していて、「三国」といっても「呉」や「蜀」はオマケみたいなものと知り納得しました。それに加え関西人特有のサービス精神でユーモア満載。ただ字面を追っているだけでも楽しく、購入して5年以上にもなりますが、ベッドに入ってから眠くなるまでのお供としてボロボロになっても繰り返し読んでいます。
その高島先生が「文章の技」として絶賛しているのが漫画家の東海林さだおさんです。とくに週間朝日で連載していた「あれも食いたいこれも食いたい」をまとめた「丸かじりシリーズ」が大好きとのこと。身近にある食べ物に関して実にこまごまと観察して、読者がふだん何となく気になっていることを明快にあぶり出しています。ただし、1つの文ごとに改行して原稿料を水増しするセコイ人だと思い込んでいましたが、最近、読者が読みやすいようにあえて改行を多くしたと知り、セコイのは私の方だったと恥じ入りました。
この高島先生と東海林先生が文章の天才と賞賛しているのが太宰治です。高校生のとき現国の中野先生の「太宰は甘いね」という言葉で、情けない人物として偏見をいだいてきましたが、『お伽草紙』で偏見は一変しました。「瘤取り」、「浦島さん」、「カチカチ山」、「舌切雀」の4編、原作をアレンジした作品ですが、とくに「舌切雀」が好きです。これもベッドのお供にしています。表現が自由自在で何回読んでも気分良く眠りにつけます。