佐野理事長ブログ カーブ

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第333回 忙酔敬語 製薬会社とのおつきあい

開業していると最新の薬剤に関する知識がとぼしくなると思いきや、製薬会社の営業マン(もちろん女性もいます)が新発売の情報を提供してくれるので、意外にも時代に取り残されることはありません。
昔は、この営業マンをプロパー(宣伝者という意味の propagandist が由来)と言っていましたが、現在はMR( medical representative )と呼ぶようになりました。文字どおり医薬情報担当者です。ただ売り上げをのばせばよいという営業マンではないのです。
欧米では治療チームの一員と認識され、医薬情報の提供はもちろん集めた副作用情報のフィードバックが主であり、医薬品の販売促進活動は本来の仕事とはみなされていません。しかし、残念ながら日本では会社の意向のため、売り上げのみに情熱をそそぐ社員が蔓延しています。こんな有害事例があったぞ、と教えてあげても何だか迷惑そう、こんな会社では危ないなあ、と心配になります。
ラミクタールという双極性気分障害に効果のある薬を採用してくれないか、と言ってきたMRがいました。処方された10%の患者さんが皮膚炎になり、なかには入院治療をしなければならないという危ない薬です。それを皮膚科との緊急な連携が取れていない当院にすすめてきたのです。さすがに頭に血がのぼりました。
「二度と俺の前でラミクタールの話をするな!」
その後、そのMRは顔を見せていません。ラミクタール以外の話なら訊いてもいいのになあ‥‥‥。新しい情報は大歓迎です。
漢方薬の原料は生薬で、ほとんどの出目は分かっています。西洋薬についてはもアスピリンやアセトアミノフェンといった100年以上も前からある薬の原料は石油であるというのは周知のこと。しかしピルなど頻繁に処方される薬品について、原料は何かと訊いても、残念ですが企業秘密です、という答えが返ってきます。何が何だか分からない薬を飲まされている患者さんこそいい迷惑で、残念とはこちらが言いたいセリフです。厚労省に安全だというデーターが提出されて販売OKになったはずですが、原料不明な薬を処方するのはどうもなあ‥‥と考え込んでしまいます。厚労省もよく許可したものです。
では漢方のMRはどうかというと、これもパッとしない人間がいます。話をしているうちに、コイツ本当に漢方を知っているのかと疑いました。
「ちょっと当帰芍薬散の構成生薬を言ってごらん」
「えーと、当帰、芍薬、甘草‥‥‥」(正解は当帰、芍薬、川芎、沢瀉、朮、茯苓)
「バカ者! 情報提供するならちゃんと勉強して来い!」
こんなことを書いていると気むずかしいヤツと思われそうですが、そんなことはありません。ごく穏やかな人間で知られています。というかバカにされているみたい‥‥。
まだプロパーと言われていた時代からお世話になったKさんという人がいました。私が医師になって2年目の頃から気にかけてくださり、今でも愛用している中医学のテキストをくれたり、それこそいろいろ情報提供してくれました。その後、私があちこち転勤してもそのつど顔を出し、当院に固定してからもつきまとってくれ、月経前症候群の漢方治療や芎帰調血飲についての論文まで書かされました。ちょっとクセの強い人で嫌われることもありましたが、いまでもその人の名前はレジェンドとしてK社では語り継がれています。