佐野理事長ブログ カーブ

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第32回 忙酔敬語 パニック障害

パニック障害は女性に多い病気の一つで、100人中、2,3人に発症するといわれています。珍しい病気ではありませんが、パニック発作を起こした時のつらさはなった人でなければ分かりません。突然、心臓がドキドキして息苦しくなり、死の恐怖に襲われることもあります。パニック発作はまったく予期していない時、夜間でも突然にやってくるので、夜間救急センターでもお馴染みの病気です。はっきりとした原因は分かっていませんが、きまじめな人が、長時間、緊張を強いられた状況に置かれると発症するケースが多いようです。ズボラな人にはまず見られません。そういう点ではうつ病になる患者さんとよく似ています。ロバート・デ・ニーロ主演の「アナライズ・ミー」が典型的な例です。
女性に多いので、当院にもパニック障害の患者さんはよく来られます。平成17年以前はカウンセリングをしたり、発作を起こした時にと抗不安薬を頓服で処方し、それでもダメな時は抗不安薬の注射をしていました。「もっと安定した治療が出来たらなあ」と思っていました。平成17年の秋、パニック障害の第一人者である赤坂クリニックの貝谷久宣先生の「パニック・シアター」と題する講演を聴く機会がありました。貝谷先生のお話は見事でした。パニック障害の病名がギリシャ神話に出て来るパーン神に由来していること、薬物療法のことなど心に染みこむような講演でした。「自分はカウンセリングはしないで、手っ取り早く薬物療法中心でやっています」と言われるのですが、患者さんに対しての病態の説明自体がカウンセリングになっているような気がしたので、そのことを指摘すると「私も、海千山千ですからね」と軽くいなされました。貝谷先生お勧めの処方は、SSRI のデプロメール(ルボックス)の1日1回、夕食後の服用でした。ただしSSRIは効いてくるまで時間がかかるので、長時間型の抗不安薬(メイラックス)と、SSRIによる吐き気を予防するためのドグマチールの併用がより効果的とのことでした。それでもパニック発作を起こした時は短時間型の抗不安薬を頓服し、SSRIを増量するというのが主要な戦略でした。
この薬物療法はまさに効果てきめんでした。ほとんどの患者さんが2週間後には「おかげさまでラクになりました。もっと早く受診すれば良かった」と喜んでくれました。私も嬉しくなりました。しかし、これで終わりというわけにはいきません。ドグマチールは、下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンを増加させるので月経不順になったり、体重が増加するといった副作用があるため、徐々に減らしていかなければなりません。患者さんも「いつまで薬を飲まなければいけないんですか」と薬に頼ることに不安を覚えるようになります。確かに薬だけでは本当の治療にはなりません。患者さんの取り巻く緊張した環境を整理しなければなりません。そこで私は「○○さんが心から安心して暮らせるようになれば薬は必要なくなりますよ」と説明します。するとたいていの患者さんは「じゃあ、しばらく飲まなければなりませんね」と納得してくれます。
煙草やカフェイン、アルコールは一見、精神安定作用があるようですが、動悸の原因になったりしてかえって病状を悪化させるので控えてください。また、適度な有酸素な運動はβエンドロフィンを増加させ、心身ともにリラックスさせるのでぜひ行ってください。
この薬物療法は妊婦さんにも母乳栄養にも問題はありませんので心配しないでください。ドグマチールは母乳の量を増やすので、この場合は副効用といっても良いでしょう。