院長ブログ カーブ

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第30回 忙酔敬語 スポーツの功罪

ロンドンオリンピックが終わりました。皆さん、「やっぱりスポーツはいいなあ」と思われたことでしょう。しかし、観戦する分には確かに良いのですが、あのレベルで実際に自分が行うのはカラダに良くありません。選手の多くが肘や膝にサポーターをしており、柔道の選手などは手足など絆創膏だらけで満身創痍といった感じでした。まさに戦いですね。カラダに良いはずがありません。
我々凡人が健康のためにスポーツをする場合は程々が大切です。「また程々か、佐野はいつも程々とばかり言っている」と思われそうですが、やっぱり程々です。札幌医科大学の初代学長でかつ初代産婦人科学講座の教授の大野清七先生は、産婦人科の医師としては珍しく長命で、97歳まで元気に過ごされていました。同門会での挨拶はいつも「勉強は落第しない程度でよいから、運動をして健康に注意しなさい」と言っておられました。ご自身はウサギの耳にタールを塗り、人工的に癌を発生させるといった世界的な業績を残しておられますが、スポーツも熱心で、スキーやゴルフをされていました。晩年はスキーは止めてゴルフに専念されていましたが、グリーン上でパターを打つは精神状態に良くないとのことで、グリーンに乗せるまでで止めていたそうです。さすがですね。
私は40歳代までジョギングにはまっていました。ジョギングに関する本も何冊か読みましたが、いまだに感心しているのは「健康のためならジョギングは5㎞、もしくは30分で止めて、他のスポーツをするように」という文でした。名優の大滝秀治さんが健康の秘訣についてインタビューを受けているのをテレビで見ました。「酒は適量を超えるあたりから美味くなるものです」と飄々と答えていましたが、ジョギングも3㎞を越えたあたりからいわゆるジョギング・ハイになって「いつまでも走っていたい」という感じになります。そうなるといろいろなアイデアが頭に浮かび、学会の準備の構想や論文の内容も50分くらいのジョギングの間に大体まとまりました。そんなある日、手術の手伝いに来ていただいた五輪橋病院の丸山先生に「佐野、お前の顔には死相が現れているぞ。余力を残さしておかないとアブナイぞ」と注意されました。先輩の言葉に素直に従い、ジョギングを止めて勤務の行き帰りのウォーキングと筋トレだけにしたところ、診療中の疲労感はなくなりました。また、毎年出席している学会でお馴染みの先生に「去年と比べて顔色も良く実にお元気そうですね」と言われました。確かにアブナイところでした。
12,3年も前でしょうか。「200㎞マラソンに出場したが、100㎞でダウンした」と言って40歳代の女性が受診しました。その後、心が折れて体調も崩れたとのことでした。当時ジョギングにはまっていた私も呆れました。「失礼ですけど、何かから逃げようとしてはいませんか」と尋ねました。女性は「そうかもしれません」と寂しそうに笑いました。その後の経過は良く覚えていませんが、彼女は翌年200㎞を完走し、その時のビデオを見せてくれました。ここまで来れば見事というほかありませんね。
命をかけるスポーツと、健康のためのスポーツは全く別のものです。しかし、レベルが上がってくるとその境目が分からなくなるのが人情です。自分を見失わないで何が一番大切なのか、ときどき立ち止まって考えるのも必要だと思います。