院長ブログ カーブ

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第296回 忙酔敬語 続・症例報告

前回、漢方研究会のワークショップについてさんざん悪口を書きましたが、私は基本的に尻軽男です。
研究会の翌日は当直でした。陣痛が弱くてお産が進まない産婦さんが突然、左上腹部痛を訴えました。助産師Sさんが、常位胎盤早期剥離という産科でもトップクラスの恐い病気かと思い、ドクターコールをよこしました。
超音波で診ても痛い部位は胎盤とは関係なく赤ちゃんも元気でした。足が冷えると言うので、前日のワークショップでの桂枝茯苓丸でお産が順調に進んだという講演を思い出しました。
漢方薬は場所を取るので院内では緊急性のある処方しか置いていません。残念ながら桂枝茯苓丸もありません。そこでもっと強力な桃核承気湯を1包飲んでもらったところ、30分もしないうちに痛みも冷えもラクになりました。
「良かったね。あと3,4時間でお産になるかもしれませんよ」
しかし、お産は進まず、翌日、赤ちゃんも苦しそうなので吸引分娩をしました。でも結果オーライ。本人もご家族も喜んでくれました。
あの1包でつらさは無くなったワケで、これからも使えるぞと思いました。
その後、ある学会誌から査読の依頼が来ました。ある治療が成功したという6例の症例報告でした。治療が成功するのは当たり前のことです。同じ治療法をしても効かない症例もありはずで、そこの所をしっかりと記載しなければ本当にその治療が効いたのかはっきりしません。もう一度書き直してもらうことにしました。
私は全日本鍼灸学会の会員です。毎年行われる全国大会では必ずといっていいほど逆子の治療のセッションがあります。ほとんどが逆子が治ったという一例報告で、たまにお灸だけでは効かなかったという演題もありましたが、それも一例報告でした。
産婦人科の鍼灸治療の第一人者は、筑波技術大学教授の形井秀一先生です。当然のなりゆきで、逆子のセッションの座長をされますが、一例報告ばかりでは、はたして鍼灸治療が有効なのかどうかは分かりません。何だかゲンナリしたというか脱力感がただように見えましたが、私の気のせいでしょうか。
鍼灸が逆子に有効であることは昔からうすうす知られていましたが、30年ほど前にある医学部の産科医が1万例を越えるデーターを報告してから、にわかに脚光を浴びるようになりました。鍼灸治療をした妊婦さんとしない妊婦さんを比較検討した報告です。ここまでやると信憑性はあります。
しかし、一例報告ではなあ‥‥‥。
症例報告について文句をたれてきましたが、ストーリー性のある報告は別です。ある苦労した症例について患者背景や治療経過を詳細に検討した報告は、たとえ治療がうまくいかなかった症例でも非常に参考になります。また聴いていて面白い。
患者数を集めて統計をとって、有意差がでたからこの治療は有効であるという報告は学会の審査員受けはします。有意差が出るとその治療法がエビデンスがあるということになるからです。しかし聴いていてもつまりません。効かなかった患者さんたちはその後どうなったのでしょう。その後の患者さんについてもきちんと報告すべきであると考えます。