佐野理事長ブログ カーブ

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第29回 忙酔敬語 『はるまき日記』

副題は「偏愛的育児エッセイ」。著者は漫画家の瀧波ユカリさん。文藝春秋・税込み1260円。日曜日の朝、朝日新聞の読書欄の「著者に会いたい」で紹介されているのを見て、その日のうちに暑い日照りの中、自転車に乗ってTSUTAYAで買い求めました。「笑いのツボを乱れ撃ちに突きまくる子育ての記。初産の娘『はるまき』が2ヵ月を迎え手近なものを熱心にしゃぶるので、著者は自分の指を赤ん坊の口に入れてみる。『うまい、うますぎる』、超絶口技に愚母も昇天寸前となり、夫にも促す、ばかりでなく『みんなが幸せになる指責め、全ての乳児持ちの家庭に』と大々的に勧めちゃってる‥‥‥。出産は2010年9月に東京で迎えたが、大震災に遭い『一変した環境に揺られながら、神経質な自分をコントロールするのは効率が悪い』と実家に近い札幌に転居した」。
以下、「はるまき日記」の抜粋です。
「2010年12月17日(金)、今日は保健師さんの訪問があった。‥‥‥。体重を計ると同時に、全身をさっとチェック。『湿疹もないしキレイですね』『首は完全にすわってますね』とのこと。恐らくアザなどの虐待の形跡がないのかどうか調べているのだろう。それからアンケートを渡されその場で記入したのだが、『子供を叩きたくなる時があるか』『この子がいなければと思う時があるか』などと直球勝負。もしそうだとしても直球すぎてマルできなさそう。さくさくと『全くない』にマルをしていったのだが、勢いで『子供をいつも愛しいと感じるか』などの質問も『全くない』にマルしそうになって、油断がならなかった」。
「2011年4月7日(木)、夫の実家に2泊する予定で準備。はるまきの服をつめたりなんだかしている時に、夫がはるまきをソファに乗せたのが横目に見えた。少し(心に)ひっかかったがそのまま隣の部屋で作業していると、ドゴッ!!という音。はるまきがソファから落ちて死んだ!と反射的に最悪の事態を想定しながら飛び跳ねるようにかけつけると、はるまきは夫の腕の中で‥‥‥、どっどどどどうと泣き出した。『どうして目を離した!見ていられないのならどうしてそこに置いた!』とスパルタ高校教諭のような台詞が口をついて出て、自分で自分に驚く。‥‥‥。いつ死ぬやも知れぬので、とりあえず家にあった『定本 育児の百科』で『落下事故』を引いてみるとまず最初に『1歳になるまでどこかから落ちずにいられる赤ちゃんはほとんどいないし、落ちて命にかかわるということはそうそうにないので安心しなさい』というようなことが書いてあった。なんて素晴らしい文であろうか。この著者になら抱かれてもよい。‥‥‥」。
「2011年10月1日(土)、はるまきが可愛い。ここ1ヵ月でぐんぐんとヒトになってしまい、愛らしさもヒト並み、いや人一倍だ。すがるように首にしがみついたり、『ちゅー』と言ったら唇を寄せてきたり、‥‥‥、トイレの前で待ってたり、‥‥‥、行動のいちいちがけなげでいじらしい。いついかなる時でも視線を合わせたり抱き寄せたりしたい。まるで恋だ。‥‥‥」。
著者の夫は、IT関係の仕事に従事しているので在宅勤務が可能で、理想的なイクメンです。最初の数ページで著者のユーモラスながらも不安定な性格が分かります。しかし、育児を通して幸せな人生を送っています。育児に悩んでいるお母さん(楽しんでいるお母さんでもいいですよ)にはお勧めの一冊です。