院長ブログ カーブ

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第284回 忙酔敬語 柔肌の熱き血潮に触れもせで‥‥‥

『産婦人科診療ガイドライン産科編2017』は産科医にとってバイブル(私はコーランと言っています)です。そんなガイドラインにもヘンテコなQ&Aがあります。
CQ104-5 授乳中に服用している薬物の児への影響について尋ねられたら?
Answer(一部省略)
1.例外を省き(佐野注:主に抗がん剤です)、授乳婦が使用している医薬品が児に大き  な悪影響を及ぼすことは少ないと説明する.(B)
2.児への影響とともに、医薬品の有益性・必要性および授乳の有益性についても説明し、  母乳哺育を行うか否かの授乳婦自身の決定を尊重し支援する.(B)
3.個々の医薬品については、国立育成医療研究センター「妊娠と薬情報センター」など  の専門サイトや専門書を参照する.(C)
4.(慎重投与)の医薬品を使用している授乳婦については、児の飲み具合、眠り方、機  嫌、体重増加などに注意するように勧める.(C)
※注A:「強く勧められる」
B:「勧められる」
C:「考慮される」
ずいぶん素っ気ない回答です。赤ちゃんを抱いたお母さんが必死に心配しているのに、まるで責任の丸投げです。血がかよっていません。
ここで思い浮かんだのが、与謝野晶子の短歌です。
「柔肌の熱き血潮に触れもせで寂しかりけり道を説く君」
私は「道を説く君」はてっきり不倫相手の与謝野鉄幹だと思っていました。だから熱く迫ってくる晶子に対して、タジタジとなって道を説いている鉄幹の姿を想像して笑ってしまいました。
しかし、この歌は鉄幹に会う前のことで、相手は国語教師だったそうです。多情というか恋多きというか、とにかく大した迫力です。
それに対して鉄幹の代表作は、
「われ男(お)の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子ああもだえの子」
頭で詠んでいて心にひびきません。勝手にもだえてろ、馬鹿野郎、です。
その後、二人は晶子の押しの一手でむすばれて、12人(1人は死産)の子までもうけましたが、鉄幹はそこで精力が尽き果て、うつ病になりました。
晶子は献身的に稼ぎ、『源氏物語』の現代語訳まで手がけました。大勢の子供に囲まれた晶子の写真を見たことがありますが、それは殺伐として鬼気迫るものでした。
オーストリア・ハプスブルク帝国の女帝マリア・テルジアも16人の子を抱えて頑張っていましたが、夫のフランツ1世は甲斐性のある男でお金儲けが上手。戦争や美術収集に散財する妻をしっかり支えていました。鉄幹とは雲泥の差です。
さて、母乳と薬の件です。
私は、抗がん剤でもなければ大丈夫、だいたい抗がん剤を飲みながらオッパイをやっているなんてありえないよね、もし自分の娘ならOKって言いますよ、と安心してもらっています。血がかよっているでしょ?