佐野理事長ブログ カーブ

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第263回 忙酔敬語 帝王切開は2回目の方がラク

たまたまお産をテーマにした漫画『コウノドリ16』を手にしてみたら、最初に目に入ったのが TRACK 46 VBAC。「VBACとは Vaginal birth after cesarean の略で、帝王切開後の経腟分娩という意味です」。この文、漫画の1コマの丸写しです。
前回、帝王切開を受けた妊婦さんがうつむきながら、
「私‥‥‥前回の帝王切開では出血も多かったし、術後の回復も悪くて‥‥‥体もしんどいまま赤ちゃんの育児をしました。それが今回は2人の育児をしなきゃいけないんです。前回は母に手伝ってもらったんですけど‥‥‥今回は母も体調が悪くて‥‥‥。VBAC
をした人のブログを見たら産後の回復も早くて入院期間も短くて楽だったって書いてあったんです」と切々と鸛鳥先生に迫ります。
誠実な鸛鳥先生は妊婦さんの希望とリスクの狭間に悩みます。
俺だったら、帝王切開は2回目の方がラクですよ、言うのになあと思いました。
帝王切開自体は簡単に説明すると、お腹と子宮を開いて閉じるだけですから、それほど妊婦さんの負担にはなりません。会陰に傷はないので、吸引分娩などで大きな会陰切開を受けたお母さんのように痛そうに足を引きずって歩くなんてことはありません。
以前は術後の管理は点滴が主で食事を制限したりしていましたが、最近は翌日から普通食が始まります。抗生物質の点滴の手術当日だけです。これだけでも術後の回復は良くなりました。昔は余計なことをしていたものです。アメリカでは翌日の退院もありですが、経験者はさすがに痛かったと言っていました。
犬でも頭でっかちのブルドックは、犬のくせに難産で、50%くらいが帝王切開になるそうです。でも犬ですからおとなしく術後の点滴を受けるだろうか、と疑問に思っていたら、当院を受診した獣医さんが「日帰りです」とあっさり答えてくれました。
当院では帝王切開の退院は原則術後5日目か6日目ですが、家庭の事情で3日目で帰った褥婦さんも何人かいます。
帝王切開の麻酔の方法はいろいろありますが、当院では腰椎麻酔にしています。効き目が早いため緊急手術に最適だからです。
腰椎麻酔の問題は麻酔液の加減と、たまにある術後の頭痛です。
麻酔液の量は患者さんの身長に応じて加減します。身長が高ければ多めに、低ければ少なめに注入します。それでも人によっては効きが不充分だったり、逆に効き過ぎて呼吸が苦しくなることがあります。したがって2回目の帝王切開では前回の経験を参考にしてラクな手術をすることができます。
腰椎麻酔後の頭痛は産科医や麻酔科医、もちろん患者さんにとって悩みのタネです。本人の血液を髄液の中に注入するという方法もありますが、これは硬膜外麻酔に失敗して髄液が漏れてしまったという症例には有効ですが、腰椎麻酔の場合はダメなようです。
五苓散という漢方薬が効くという報告がありますが、私の経験では痛くなってからでは効きません。しかし、術前から服用してもらうと前回の頭痛はウソのようだったと喜んでくれました。
というワケで、帝王切開は2回目の方がラクなのです。ただし、次回は転居などで当院でするとは限りません。そこで手術記録のコピーをご本人に渡すことにしています。