院長ブログ カーブ

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第260回 忙酔敬語 とめ、はね、はらい

当院では分娩間近になった妊婦さんに対して「バースプラン」のアンケート用紙を渡して記入してもらっています。
ある日、21歳の若いお母さんの「バースプラン」と見ると、きれいな字で
「フリースタイルは初めてなので恐い(ちなみにすでに第2子目の経産婦さんです)‥‥。旦那がいらた立ち会って欲しい‥‥。頑張ります」とか書かれていました。
それぞれの字の、いわゆる「とめ、はね、はらい」がキッチリとしていて感心しました。
「ずいぶんきれいな字を書くなあ、お習字を習ったの?」
本人は首を傾げましたが、一緒に来ていたお母さん(赤ちゃんの祖母)は
「習わせた覚えはない」と首を横に振りました。
私は毎日、カルテにけっこうな数の字を書いていますが、自他ともに認める悪筆で皆に迷惑をかけています。ときどき自分でも判読できない字も書きます。
また、子供の時分から漢字の書き取りが苦手で、ワープロになってからはさらにみがきがかかり、「旦那」とか「頑張る」の「頑」は漢字で書けません。ですから素直に尊敬しました。
じゃあ、電子カルテにすれば良いかというと、正直言って面倒なので紙カルテのままです。それこそ、もう少し頑張れば電子カルテにするのは難しくはありません。いずれ若い医師が参加してくれるようになれば変えることになるでしょう。
昨年の暮れ、8人の体育会系の同期でミニ同期会をしました。宴もたけなわの頃、「電子カルテは確かに便利だが、画面に現れている部分しか見えないので、その患者さんの過去の経過など全体像をザックリ見るには紙カルテの方がすぐれている」と元野球部のヤツが話しました。学生時代、この集まりの中ではこの元野球部が一番成績が優秀でしたが、四十年近くたってもさすがに良いことを言うと感じ入りました。また、電子カルテに移行しない理論武装もできたので嬉しくなりました。
そう言えばこの「嬉しい」という字も私は書けませんが、あのヤンママは「バースプラン」の中でちゃんと書いていました。どうやって覚えたんだろう? 今どきの若い子はメール文化で字を書くという機会はめったにないはずなのに‥‥‥。
もともと字を書くのは嫌いではありませんでした。小学校に入ったとき、2Bの軟らかい鉛筆で「かきかた」の勉強をするのは好きでした。それが高学年につれHBのやや硬質な鉛筆を使い出したあたりから字は乱れてきました。(鉛筆のせいにするな!)
お習字も墨をするまでは熱心にやっていましたが、「とめ、はね、はらい」になるとてんでダメ。私の母は、昔、お習字を習っていたので、冬休みの書き初めの宿題でお手本を書いてくれました。それを下敷きにして書いて提出したところ、「勢いはないがバランスが良い」と教室の後ろに張り出されましたが、あまり良い気持ちはしませんでした。
そうそう、「バースプラン」のヤンママは、翌日、無事、お産となりました。「旦那」は仕事で都合がつかず、前日に一緒に来ていた「お習字を習わせた覚えのない」お母さんが立ち会ってくれました。
「分娩台に移るだなんて面倒くさいことがなくて良かった」
と、ほぼ「バースプラン」どおりのお産ができました。