院長ブログ カーブ

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第258回 忙酔敬語 若きカメラマン

K君は写真の専門学校の学生さんです。昨年の11月、私はK君に3回にわたって激写されました。なんでも、学校から「ある人物像の生態を撮れ(ただし家族以外)」という課題を授けられたとのこと。
K君はまだ18歳。誰を標的にして良いのやらとんと見当がつかず家族会議を開いたところ、10年ほど前に当院で末っ子を産んだお母さんが「佐野先生ではどうだろうか?」と提案されました。お父さんも「それが良い」と賛同され、とうとう私に狙いが定まりました。
私はカメラを向けられるのが苦手で、「笑って、はい、チーズ」と言われても顔が引きつります。ちょっと困ったなと思いました。しかしながら基本的に「ノー」と言えないタチなので引き受けることにしました。
K君の依頼書を見ると、仕事や講演をしているときの自然な姿を撮り、患者さんなどは撮らないとのことなので、ふつうにしていれば良いのだなと判断しました。
実際にK君に会ってみるとお母さんの面影のある真面目そうな青年でした。その後、あまり要領は良くないと判明しましたが、そのくらいの方が私的には好感が持てます。
彼の要望は飲み込めたので、さっそく、「さあ、撮っても良いぞ」と、術着に着替えたり、院内を歩いたり、パソコンに向かったり、あげくは調子に乗って腕立てをしたり木刀を振ったりしました。ただし、ほとんどカメラ目線はなし。
さすがプロの卵で、「それで良いです」と、でかいカメラを構えてカシャカシャカシャと連続シャッターをきりました。
ちょうど、数週間後に札幌市主催で妊産婦さん向けの講演をすることになっていたので、係の方に電話をして、「若いカメラマンを同行して良いか、ただし撮影の対象は佐野だけで聴衆の皆さんには迷惑をかけない」と確認したところ、すんなりOKが出ました。
講演会は北区保健センターの会議室で行われました。会場へ向かう途中、K君は、学校の先生が私のぼっこ振りの写真を褒めてくれたと言ってくれました。講演会は午後6時半から8時半。会場には当院で健診中の妊婦さんもいました。
K君は自分の気配を消して、誰にも気にされないように撮影してくれました。これって大事なことです。報道機関のカメラマンが汚い格好で傍若無人に撮影するのが不愉快だったので、彼は将来、誰にでも好かれるカメラマンになれるぞと頼もしく思いました。
講演会での撮影が最後の撮影でした。彼はこれまでの写真をすべて送ってくれると言いましたが、私は学校に提出する写真だけで充分とやんわり断りました。
その後、10枚の写真が送られて来ました。一緒に添えられた手紙には学年でトップの評価を受けたとのこと。良かった良かった♪
郷久先生をはじめ、写真を見た人は皆「良く撮れているね」と感心してくれましたが、当の本人は「俺ってこんなに老けていたのか」とガックリきました。パソコンに向かっている姿勢は前屈みで、そしてたるんだ顎、自分でも気づかなかった。ぼっこ振りの写真も顎を突き出して、よくもまあ、こんな姿をさらけ出したもんだと恥じ入りました。
唯一気に入ったのは、K君のお母さんのいた病室での一枚。郷久先生も「遺影に使えるね」と言ってくれました。焼き増しをお願いしようかな‥‥‥。