院長ブログ カーブ

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第256回 忙酔敬語 陰陽太極鍼法

「インヨウタイキョクシンポウ? 何のこっちゃ?」
帯広で治療院を開業している伝説の鍼灸師、吉川正子先生が中心となって行われている治療法です。患部と反対側にある穴(ツボ)を刺さない針(ほんの浅く切皮ていど)で治療する方法です。鍼灸学会での吉川先生の名声は高いのですが、その割には世間には広まらず、鍼灸師の先生でも実際に行っている方はほとんどいません。
鍼灸の治療に使われている穴は不思議なもので、痛みと離れた穴を利用しても効果を発揮することがあります。喉の痛みに「合谷」という手の親指と人差し指の間にある穴に鍼治療をすると、たちまちラクになることは良く知られています。また、前頭部が痛いときは、「足の臨泣」(足の小指と薬指の間にある穴)に治療したり、虫垂炎でまだ手術するほどでもないときは膝の下にある「闌尾穴」の治療で痛みが消えることがあります。その他、いろいろ‥‥‥。きりがないのでこの辺でやめておきます。
鍼灸の紀元は、もともと痛い場所に「手当」をすることから来ていると言われているように、痛い箇所に直接治療していましたが、鍼灸独特の経絡の理論が大成されて、遠方射撃も有効だと判明されました。もちろん痛いところに刺してもかまいません。
私が鍼治療をはじめたのはきっかけは、子宮がんで広汎子宮全摘を受けた後、排尿障害になってなって、なかなか退院できない三十代の患者さんの受け持ちになったことでした。様々な治療を試したのに効かない。とうとう先輩の先生が「佐野、Mに鍼治療を習ってみたら」と言われました。M先生は当時、大学院生。学究肌ですが手術など臨床もこなせるオールマイティーの先生でした。先生は「良導絡」といって、経絡現象を電気生理学的に研究する学問もマスターしていて、私に2,3回ほど手ほどきしてくれました。患者さんは不安が強くて甘えっ子で、排尿障害の他に肩こりや腰痛など様々な症状を訴えました。そこで入門書を片手に鍼治療をしてみたら驚くほど効いた。患者さんも驚いて自分でもその入門書を購入して「ああして、こうして」と言うようになり、それを見た同室の患者さん達も「ああして、こうして」と言うので、私はすっかり腕を上げました。
その後、M先生と同じように私も良導絡学会に入りました。そして、ある地方会で吉川先生の「陰陽太極鍼法」の講演を聴きました。はじめは「痛いところに刺せば良いのに面倒くさいことをするなあ」と思っていましたが、原因不明の骨盤や下腹部の痛みを訴える患者さんに試みたところ、あっという間に痛みがとれたので、すっかりハマってしまいました。
この原因不明の痛みというのは想像以上に多くて、基本的に「様子をみましょう」で何とかなりますが、何とかならない患者さんもいます。こんな患者さんはMRIなど高価な検査代ばかりかかって実に気の毒です。そんなときに「陰陽太極鍼法」は威力を発揮します。産婦人科領域の痛みは場所が場所だけに直接鍼治療をすると大抵嫌がられます。刺激も円皮鍼と言って小さな棘が附いているシールを張るだけ。実に簡単です。
「陰陽太極鍼法」を知って10年以上にもなります。吉川先生も名誉なことに私を「高弟」と認めてくださっている様子。今後はこの治療法を一般の西洋医の先生にも啓蒙していきたいともくろんでいます。