佐野理事長ブログ カーブ

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第245回 忙酔敬語  掻いちゃダメ!

前回のブログの題名はもともとは「掻いちゃダメ!」の予定だったのですが、書き出しに「痒い痒い音頭」を紹介してしまい、方向がそれてしまいました。今回、あらためて痒みについて考察してみます。
痒いと掻きたくなるのはご存じのとおり。また掻くと気持ちが良い。私の友人で長年水虫を患っている男がいました。水虫は時間はかかりますが根気よく治療を続ければ治ります。奴にそう言ったところ、「そんなことは知っているが掻くと気持ちが良いので放っておいている」とすまして足をポリポリしていました。まわりの者はいい迷惑でした。
皮膚科ではあらゆる疾患について掻いてはいけないと指導しています。気持ちが良いという行為は動物にとって有意義なことです。お腹が空いているときの食事は快感です。生殖行動も基本的に気持ちが良い。凝った肩をもんでもらうのも気持ちが良い。なぜ掻いちゃダメなのか?
学生時代、皮膚科のカンファレンスで教授に訊いてみました。今までこんな変な質問をされたことがなかったのか教授はしばし絶句。我ながら昔から変なことを考えていたものです。すると賢そうな新進気鋭の助手(今では助教と言います)の女医さんが、「動物実験で気づいたんですけど、寄生虫を取る行為から来ているんじゃないかしら」と言いました。これは予想していた回答でした。犬や猫もときどき目を細めて後ろ足で首を掻きます。きっとノミなどを取る行為なんでしょう。
寄生虫を取り除くのは納得のいく行為ですが、掻いてはまずい疾患だらけというのはやはり不思議なことです。実際に産婦人科の診療でもカンジダでもトリコモナスでもないのに痒みだけを訴えて来る患者さんは大勢います。多くは湿疹です。始めになにかのきっかけがあったのでしょうが掻き続けているうちにますますひどくなる。フェミニーナ軟膏をつけても良くならない。
ここで言っておきますが、けしてフェミニーナ軟膏を悪く言っているわけではありませんよ。フェミニーナ軟膏の主な成分は局所麻酔薬と抗アレルギー薬です。局所麻酔薬は痒みを瞬時に和らげる作用があります。これ以上掻かなければ治っていたことでしょう。治らない人が受診するわけで、「フェミニーナ軟膏なんて効かないよ」なんて口をひん曲げるつもりはありません。
さて、治らない患者さんを診察すると本来なら柔らかい外陰部の皮膚がただれてゴワゴワになっています。
「何か月も前から掻いていたんですね」「はい‥‥‥」「皮膚が虐待されていますよ」
ここまでになるとステロイド軟膏が必要になります。ステロイド軟膏には5段階あって、ウィーク(弱い)、マイルド(中程度)、ストロング(強力)、ベリーストロング(かなり強力)、ストロンゲスト(最強)があります。
この患者さんにはベリーストロングを処方しました。塗り方としてけっして擦り込まないこと、少量を点々と点描画のように塗布するように指導しました。擦り込むとその刺激でかえって悪化するからです。
強いステロイド軟膏は止めるとリバウンドといって痒みが再発するので、ラクになったら1ランクか2ランク下の軟膏を処方します。いいですか、掻いてはダメですよ。