院長ブログ カーブ

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第24回 忙酔敬語 学会で発表するということ 

学会で発表するというと、「勉強熱心で偉いですね」と褒められますが、学会は「こんな治療法を見つけたよ」とか「こんなに珍しい病気を治したよ」といった自慢話の場ともいえます。ですから自慢している演者の先生に意地悪な質問をして困らせるというのも学会の楽しみ方の一つです。
東洋医学会で「抗うつ薬のパキシルを徐々に減らして、最後は柴胡桂枝加竜骨牡蠣湯に切り替えて治療を終了することが出来た」という講演を聴きました。パキシルという薬は急に止めると離脱症状を起こすため減薬が難しいとされています。そういう意味ではなかなかいい講演でした(現在では低容量のパキシルも使用出来るようになり、それほど難しくはありません)。しかし最後の「パキシルと比べて柴胡桂枝加竜骨牡蠣湯の方が患者のコンプライアンスが良い」という結論にちょっと引っかかり質問しました。ここでいう「コンプライアンスが良い」というのは、薬が飲みやすく、患者さんが抵抗なく治療を続けることが出来るという意味です。「パキシルは1日1錠の服薬ですむのに対して、柴胡桂枝加竜骨牡蠣湯は1回2.5gのエキス顆粒を1日3回も飲まなければなりませんよね。それなのにどうしてコンプライアンスが良いといえるのですか?」。演者の先生は答えに窮しました。東洋医学会なのに座長の先生の救いのコメントもありませんでした。演台を降りた演者の先生は、私を恨めしげに見て苦笑いをしながら去って行きました。私も心の中で「意地悪言ってご免ね」と言いながら莞爾と笑顔を返しました。(最近ではコンプライアンスという言葉にかわってアドヒアランスという言葉が使われるようになりました)
人のことは言えません。私も完膚なきまでたたかれたことがありました。「五虎湯という咳に使う漢方薬を痔の患者さんに飲ませたら良く効いた」と発表したときのことでした。「この方法は2冊の中医学のテキストを参考にした。作用機序は五虎湯の消炎鎮痛効果によるものと考えられる」と言って発表を終えたところ、名古屋の今泉清先生に「その2冊のテキストは日本人が書いた物で本当の中医学とはいえません。その治療法を発見したのは日本の大塚敬節先生で、作用機序は肺と大腸が表裏の関係にあるからです」と私の不勉強ぶりを指摘されました。講演を終えると私は今泉先生のところに行って、名刺を差し上げながら「貴重なご教示をいただきありがとうございました」と素直にシャッポを脱ぎました。後日、今泉先生から手紙が届きました。「今までいろいろな学会で演者に質問しましたが、先生のようにお礼を言われたのは初めてで驚いています。文献を同封しましたので参考にしてください」とそのまま論文に載せられるようなコピーが3部入っていました。今泉先生は当時すでに80歳を過ぎているようでしたが、さすが京大出でその勉強熱心さには感服しました。その後も学会でお会いするたびに暖かいコメントをいただきました。
何だかこれも自慢話みたいですね。