院長ブログ カーブ

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第234回 忙酔敬語 一人回診禁止令

「先生、一人で病室に行かないでください!」
「ちょっと様子を見に行くのがそんなに悪いのかい?」
「先生は放っておくと何を言うか分からないし、かえって患者さんが混乱して、結局、困るのは患者さんなんですよ」
「俺には言論の自由はないのかい?」
「もちろんありません」
当院のスタッフは実に几帳面で、患者さんの情報はすべて確保していないと気がすまないようです。私が彼女たちの想定外の行動をとるのは基本的に禁忌です。
私は院長です。その言動は、その昔、大学病院の新入医局員だった頃とは一線を引かなければならないのは重々承知のこと。「本当に分かってるのかしら?」とスタッフは疑がうかもしれませんが、まぁ、最近やっと納得してきたのは事実です。
医学部の学生のとき私は劣等生でした。落第はしたことはありませんが追試が許される科目は自慢じゃありませんがすべて受けさせてもらいました。しかしながら後から思い起こすと、札幌医科大学の初代学長であり産婦人科の初代教授でもあった大野清七先生が常々言われていた、「学生は落ちない程度に勉強すれば良い。一番大事なのは健康で、スポーツをして体を鍛えなさい」を忠実に実践していたので、長い目でみれは有望な学生でした。(本当かなあ‥‥)
それまで自分が必要とされているという実感のない人生を送っていた私にとって、頼りにしてくれる患者さんとの出会いは新鮮でした。患者さんの状態を確認すべく頻繁に病室を訪れました。
新米医師にとってそれは怖いベテランの看護師さんが「どうして患者さんは私たちよりも先生に何でも言うのかしら、悔しいわ」とつぶやいたとき、「勝った!」と胸をときめかしました。と、同時に看護師さんの誇りを垣間見てあらためて感心しました。
私と同期の元産婦人科准教授の遠藤先生も同じく学生時代は劣等生で、医局に入って臨床の面白さに目覚めた男です。二人で夜回診をしたことがありました。遠藤先生の患者さんで抗がん剤のため頭髪がほとんど抜けた女性がいました。
「いったい私は治るんでしょうか?」と言う根源的な質問に対して
「大丈夫、大丈夫。髪もこれからどんどん生えてきますよ」
主治医でもないのに私は患者さんの頭をなで回しながら言いました。こんな新米医師の言動に患者さんは安心したようにニッコリしました。
後でこの女性は当時の内科のE助教授夫人と知ってビックリしました。さらに後年、E助教授は教授となり、私が博士論文の審査を受けた際、大変お世話になりました。もちろんE教授は自分の奥さんが私に頭をナデナデされたことは知るよしもありませんでした。
演劇の才能のある遠藤先生は、その年の医局の忘年会の出し物として『愛の夜回診』というコントを書き、自身はクレージードクターを、私は患者(当時としては女装の先駈けでした)を熱演して大喝采をあびました。
このように一人回診は下っ端の医師には大事なことですが、影響力のある立場になると考え物です。でもチョッピリ寂しい‥‥‥。