院長ブログ カーブ

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第226回 忙酔敬語 ベビーハーネスと肘内障

最近は見かけなくなりましたが、一頃、よちよち歩きの子供にハーネスを装着するのが流行りました。
はじめて見たときの私の印象は、可愛い!でした。
この辺が、ベビーハーネスの賛否の分かれ目です。
流行らなくなったのは、虐待、と見る人が多数を占めたからでしょう。
虐待派は「まるで犬みたいなあつかいだ!」と憤慨していますが、犬のハーネスにも二系統あって、首からリードが出るタイプと胴体に装着するタイプがあります。
首からのハーネスは、犬にとっても気の毒なことです。子供の時分、飼い犬の散歩をしたとき、ヤツは道ばたの何かに強く興味を抱いて必死で近づこうとする、こっちはいい加減にノルマの散歩をかたづけたいからリードを引っ張る。ヤツは首を絞められながらもゼイゼイと涎を垂らしながら抵抗。それを無理矢理引きずり離す。その時のヤツの恨めしそうな目つきがいまだに忘れられません。
パリなどのペット先進国では、胴体に装着するタイプが主流で、犬に苦しみを与えることはありません。
私がベビーハーネス賛成派なのは、その安全性です。車の走っている道路に飛び出す防止になります。
リードはリュックのように背負った部分から出ています。装着部分が高いと、ひっくり返って後頭部を打つ危険がありますが、腰の部分だとせいぜい腰が砕けてズルズルと引きずるだけ。
「そんな犬みたいなあつかいをしないで手をつなげば良いではないか!」と反対派は口をとがらせます。
子供は黙って手をつないでくれるとは限りません。「イヤだイヤだ」と手を振り切ろうとします。そこをグッとこらえていると子供は急におとなしくなります。肘から下をダランとぶら下げて‥‥‥。
肘の骨が外れたのです。りっぱな病名もついています。肘内障です。
私がはじめて肘内障を見たのは整形外科の実習のときでした。担当は詩人の河邨文一郎教授。整形外科の世界でも独特の術式をあみ出して名を馳せていましたが、一般には札幌冬季オリンピックのテーマソング、『虹と雪のバラード』の作詞家として知られていました。なかなかのハンサムで伊達男。いつも派手なネクタイをして気取った身振りをしていましたが、それが何ともきまっていました。作家の渡辺淳一の良き理解者でもありました。
一人の子連れの女性の診察が終わりました。診察室を出た女性は、まもなく、「あのう、この子の様子が変なんですけど」と言って、また診察室にもどって来ました。男の子は左腕をダランと下げ、黙りこくっていました。
教授は黙ってその子の左腕の関節を固定して、そっと外側上方に曲げました。まさにカチッといった感じで腕ははまり、子供は元気になり、お母さんも「ありがとうございます!」と言って帰って行きました。教授は終始無言でしたが、良いところを学生に見せられてご機嫌だったと思います。
てなワケでベビーハーネスに賛成です。