院長ブログ カーブ

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第225回 忙酔敬語 続・抗うつ薬が効かない?

二十年近くも前までは、軽症の「うつ」はあつかいやすい疾患でした。四環系の抗うつ薬(ルジオミール、テシプールなど)が面白いように効きました。とくにルジオミールは1日1回で微妙に調整ができて効果も早く現れるので私のお気に入りでした。
そんなさなか、SSRIなる向精神薬が登場しました。日本で承認されるに先立ってNHKのスペシャル番組で「人生を変える薬」として紹介されました。実際に紹介されたのは、SSRIの中でもいまだに日本では承認されていないプロザックです。
それまで生きにくい人生を送っていた男性が、この薬を飲んだ途端、ふつうの生活ができるようになりました。あまりの激変に男性は悩みました。
「これは本当の自分ではない。いつわりの自分だ。この薬を飲まないで悩んで生きるのが本来の生き方ではないのか?」
まるで映画『マトリックス』です。キアヌ・リーブス演じる主人公が、「今、生きている世界はいつわりの世界だ。この薬を飲めば真の世界、『マトリックス』で生きることになる」と言われて、カプセルを飲んだところ、イッチャッてる世界が現れ、波瀾万丈の人生を送ることとなります。客観的に見て、そのカプセルはアヤシゲです。麻薬かなんかのたぐいとしか思えません。
プロザックは逆のバージョンで、まともな人生が送れるようになるというのです。この番組を見た私は期待で興奮しました。オレも早く使ってみたい!(患者さんにですよ)
まもなくSSRIのなかのデプロメール(ルボックス)が承認されました。はっきり言ってガッカリ。三環系や四環系の抗うつ薬よりも副作用が少なく安全だというのですが、吐き気があり、けっこう使いづらい。そもそも切れ味が悪い。その後、パキシル、ジェイゾロフト、そしてレクサプロが承認されましたが、プロザックはいまだに未承認です。でも、本当はプロザックでもNHKスペシャルが紹介したような効果はないようです。ガサネタでした。その他NHKには何度もだまされました。
では、お気に入りの四環系の薬はどうかというと、それが最近、パッとしないのです。獨協大学の井原教授の言うとおりになっています。患者さんの病態が変わってきたのでしょう。近年、新型うつ病という病が若者に蔓延するようになりましたが、何を飲ませても効きません。最近は新型うつ病は、うつ病とは別物と考えられるようになりました。
友人の精神科医は、その世代に流行った抗うつ薬が効く、と言っていました。すなわちうんと老年期の患者さんには三環系、老年期は四環系、中年期以下はSSRIもしくはSNRIが効くと言うのです。ナルホド、と納得しました。同じ「うつ」と言っても脳神経の病態は微妙に違うのでしょう。
私どもの周辺で、よくお目にかかるマタニティーブルース、産後うつ病は、さいわいにもスルピリドがよく効きます。スタッフも慣れたもので、「○○さん、(気分が)落ちているので薬を処方してください」と言ってきます。早い人では2,3日で良くなります。 しかし、産後うつも含めて、うつ病は生活環境が大きく関与しています。井原先生はここの辺の所を強調しています。北大の公衆衛生学でも食事を含めた生活環境と産後うつの関係について調査を開始しました。当院も、このプロジェクトに参加していますので、妊婦さんに調査票を説明する際は、よろしくご協力のほどお願いいたします。