院長ブログ カーブ

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第224回 忙酔敬語 抗うつ薬が効かない?

『週間 日本医事新報』という雑誌があります。専門雑誌ではなく、医療に関して多岐にわたって、取っつきやすい形式で書いていて、私の愛読書の一つです。必ず目を通しているのが「質疑応答」の欄。これはさらに「Pro⇔Pro」と「臨床一般」に別れています。もちろん「Pro⇔Pro」の方が専門的です。
4月1週号に、精神科のクリニックの先生から、多様化するうつ病に対して従来の抗うつ薬では対応しきれなくなり、どのような心構えとテクニックをもって診療にあたるべきか、という質問が掲載されていました。このコーナーの良いところは回答する先生を指名できることです。今回ご指名された先生は獨協医科大学教授の井原裕先生。
この先生の回答はテンションが高く愉快でした。以下、抜粋です。
〈最近になって「薬物療法では対応しきれない患者が増えた」というよりも、「そもそも抗うつ薬とは効かないもの」なのです。臨床の混乱は、精神科受診者が増えたため、その中のうつ病患者も増え、その分「薬物療法では対応しきれない患者」も増えたものと思われます。‥‥‥‥‥‥。薬物療法が有効なのはうつ病全体の2割弱です。8割の以上に薬は無意味であり、そのうちのプラセボ効果で治る人を除けば、残りはすべて「薬物療法では対応しきれない患者」ということになります。つまり、抗うつ薬が奏効する患者より、奏効しない患者のほうが多いのです。この事実を知れば精神科医のあなたはうつになるかもしれませんが、それでは試しにあなた自身が抗うつ薬を服用なさってみて下さい。多分効かないでしょう。抗うつ薬は「効いたらもうけもの」であって、「効かなくてもしかたない」といった諦念ををもって処方すべきものです。「薬物療法で治せなかったとしても、あなたは決して悪くない。でも、薬物療法によってさらに悪化させたとすれば、それはあなたが悪い!」。したがって、うつ病治療の目標は、「治せなくてもいいから、薬で悪くしない」とすべきなのです。‥‥‥‥‥‥。〉
目から鱗でした。でも昔は抗うつ薬の効く患者さんが多かったなあ。
私は医者になって3年目のぺいぺいの頃、はじめて抗うつ薬を処方しました。患者さんは筋腫のため子宮全摘を受けて3週間目。井原先生に負けず劣らずテンションの高いおばさんで、産婦人科部長の小國先生が「佐野君、あの患者は(クレームが多そうだから)注意しろよ」と釘を刺されるほどでした。その患者さんが退院後1週間目にションボリと「先生、元気が出ないの‥‥。」と言って受診しました。当時は三環系の抗うつ薬が主体でした。トリプタノールをチョッピリ処方したところ、さらに1週間後、「先生が主治医で良かった!」と元気ハツラツで受診しました。コワイ外来主任の看護師さんもニコニコして「私もそう思います」と言って私を有頂天にさせてくれました。
更年期障害の患者さんの中にも2割くらい、うつ病がまぎれていました。どこを受診しても良くならない。そんな患者さんがわれらが札幌医大産婦人科心身症外来にかかると8割が改善しました。その頃には三環系の抗うつ薬に加え、四環系の抗うつ薬やスルピリドもさかんに使われていました。まるで名医になったみたい。うつ病の患者さん、大歓迎でした。(次回に続く)