院長ブログ カーブ

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第210回 忙酔敬語 あなたの症状はたかがその程度なんですか?

帝京大学外科准教授の新見正則先生は愉快な人です。生涯のテーマは移植免疫学で、マウスの心臓の移植に明け暮れていますが、臨床家としても造詣が深く、その結果として漢方にも足を踏み込み、新しい観点から著作されたり講演したりで大忙しです。
昨年、東洋医学会北海道支部学術講演会で実際に先生のお話を拝聴しましたが、さすがイグ・ノーベル賞を受賞されただけあって話は面白いし目から鱗の内容で、しかも時間はピッタリと守る。新見先生だけでなく最近の売れっ子の先生は本当にお話しが上手で時間厳守です。それに対して某大学名誉教授の時間オーバーは有名で、私はあちこちで「あの先生にだけは講演をさせるな」と言っています。
「君子豹変す」と言いますが、先生もお子さんを授かってから臨床に対する考え方がガラリと変わりました。はじめは生体肝移植について「何てオロカなことを!」と考えていましたが、「この子のためには出来ることは何でもする!」と方針を変更したそうです。
『日本医事新報』という医学雑誌で一昨年、新見先生の「実践ちょいたし漢方」の特集号がありました。文章のノリが良くてとにかく面白い。とくに気に入ったのは以下のコラムです。
〔漢方が飲みにくいという訴えを時々耳にします。昔は、内服しやすい製剤を提供しない製薬会社の怠慢と思っていました。しかし最近は、飲みにくいぐらいで内服しないのであれば、その程度の症状なのだと理解し、患者さんにもそう話しています。幼いお子さんが、辛い症状を治したい一心で一生懸命飲んでいる姿をみて、そう思うようになりました〕
このフレーズ使えるなと思い、私もたまに意地悪になって実行しました。心優しい津村先生は「僕はとてもそんなことは言えません」と尻込みしました。
新見先生は「君子豹変す」でいまだに進化しています(本当言うと、この「進化」という言葉はキライです。本来は「進化論」のように生物学の学術用語でした。しかし、多分、大リーグのイチロー選手を評価する頃から本来なら「進歩」と言うところを強調するために「進化」という言葉に転換され、当時、これに対して文句をたれる人もいましたが、とうとう大新聞でもNHKでも使われるようになり現在にいたっています。そして今回、新見先生を称えるために使わざるを得なくなりました)。講演の内容も『医事新報』で書かれていたのと微妙に変化していました。
それでも講演後、あえて質問しました。
「昨年、先生の書かれたウンヌンカンヌンという言葉、とても気に入って時々使っていますが、現在はどうされていますか?」
先生としては最新の著書を読んでほしかったはずですが、それでも嬉しそうに答えてくださいました。やはり、もうそんな過激な言葉は使っていないとのこと。知らない間に進化していました。そして私は取り残されたまま‥‥‥‥。
「幼いお子さん」で思い出したのが治頭瘡一方という漢方薬。子供の頭部の湿疹に実によく効きます。大学病院の皮膚科でも良くならない4,5歳くらいの子供の頭に出来た湿疹が、7日分の処方で、お母さんもビックリするほど良くなりました。治頭瘡一方は大人が飲んでもちょっとキツイ薬です。それでもその子は「カリントウみたい」と言って喜んで飲んだそうです。どうも合う漢方なら別にがまんしなくても飲めるようです。