院長ブログ カーブ

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第201回 忙酔敬語  堕ちるとこまで堕ちて人生が分かる

今年読んだ本の中で一番よかったのは車谷長吉著『車谷長吉の悩み相談 人生の救い』(朝日文庫)。もともと朝日新聞の土曜版の「悩みのるつぼ」という相談コーナーに掲載されたものです。何人もの人生の達人が代わる代わる執筆されていました。その中で私が楽しみにしていたのが、上野千鶴子さんと車谷長吉さん。とくに車谷さんは「人生の救い」と称しておきながら、ちっとも救いにならない回答をして私を楽しませくれました。妻子ある教師の「教え子の女子高生が恋しい」という相談に関しての回答は、朝日新聞が掲載をためらったほど過激でした。でも私はそれを再読したくて、この本を購入しました。その部分を抜粋します。
〔相談者:男性高校教師 40代
英語を教えて25年になります。自分で言うのも何ですが、学校内で評価され、それなりの管理的立場にもつき、妻と子ども2人にも恵まれ、まずまずの人生だと思っています。でも、5年に1度くらい、自分でもコントロールできなくなるほど没入してしまう女子生徒が出現するんです。今がそうなんです。相手は17歳の高校2年生で、授業中に自然に振る舞おうとすればするほど、その子の顔をちらちら見てしまいます。‥‥‥‥‥。自己嫌悪に落ち入っています。もちろん、自制心はあるし、家庭も大事なので、自分が何か具体的な行動に出ることはないという自信はありますが、自宅でもその子のことばかり考え、落ち着きません。‥‥‥‥‥。教育者としてダメだと思いますが、情動を押さえられません。どうしたらよいのでしょうか。
回答:「恐れずに、仕事も家庭を失ってみたら」
私は学校を出ると、‥‥‥‥この会社は安月給だったので、一日二食しか飯が喰えませんでした。‥‥‥‥‥。仕方がないので、高利貸から金を借りて‥‥‥‥‥‥。生まれて初めて貧乏を経験しました。‥‥‥‥‥。次に勤めたのは総会屋の会社でした。金を大企業から脅し取るのです。‥‥‥‥‥。三十代の八年間は月給二万円で、料理場の下働きをしていました。この間に人の嫁はんに次々に誘われ、姦通事件を三遍起こし、人生とは何か、金とは何か、ということがよくよく分かりました。‥‥‥‥。あなたの場合、まだ人生が始まっていないのです。世の多くの人は、自分の生はこの世に誕生した時に始まった、と考えていますが、実はそうではありません。生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。従って破綻なく一生を終える人は、せっかく人間に生まれてきながら、人生の本当の味わいを知らずに終わってしまいます。気の毒なことです。あなたは自分の生が破綻するのを恐れていらっしゃるのです。破綻して、職業も家庭も失った時、はじめて人間とは何かということが見えてくるのです。あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。そうすると、はじめて人間の生とは何かということが見え、この世の本当の姿が見えるのです。せっかく人間に生まれてきながら、人間とは何かということを知らずに、生が終わってしまうのは実に味気ないことです。そういう人間が世の中の九割です。‥‥‥‥‥‥‥。世の人はみな私のことを阿呆だとあざ笑いました。でも、阿呆ほど気の楽なことはなく、人間とは何か、ということもよく見えるようになりました。阿呆になるのが一番よいのです。あなたは小利口な人です。〕
最後の「あなたは小利口な人です」は凄いと思いませんか? 斬って捨ててますね。