佐野理事長ブログ カーブ

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第186回 忙酔敬語 妊娠浮腫はカラダに良い?

妊婦健診のときに必ず確認する言葉。
「何か変わったことはありませんか?」
「この2,3日、手足が浮腫むようになりました。大丈夫ですかねえ・・・」
「ああ、心配ありません。血圧やおしっこの蛋白が問題なければ、妊婦さんの浮腫はカラダに良いそうですよ」
「ええっ!? 本当ですか?」
私は診療中、患者さんにリラックスしてもらうために笑いをとるようつとめているので、またご冗談を、と思われることがよくあります。しかし、今回はマジメです。
日本妊娠高血圧学会編『妊娠高血圧症候群の診療指針2015』の「浮腫に関する考え方」には以下のように書かれています。

浮腫が妊娠結果に与える影響としては、
①母体年齢、経産回数、身長などと浮腫の頻度との間に相関はない。
②体重の増加に従って全身浮腫の頻度は増加する。
③浮腫のある妊婦は浮腫のない妊婦に比べ体重の重い児を生む。
④浮腫のある妊婦は低出生体重児を生む頻度が少なく、浮腫はわずかに周産期死亡率を下げる。
⑤浮腫のある妊婦のほうが周産期予後は良好である。

浮腫とは皮下に水が貯まることです。ただし、あくまでも血圧や尿蛋白に異常がないことが条件です。異常があればかなりヤバイことも生じます。肺にまで水が貯まって肺水腫となりアップアップ、脳に水が貯まって痙攣を起こす子癇発作など。
昔、妊娠中毒症(高血圧、尿蛋白、浮腫)で入院していた妊婦さんが、ある日、目が見えなくなった、と訴えたことがありました。眼科で診てもらったら眼底に水が貯まったため網膜剥離が生じたとのこと。もうそろそろ限界かと帝王切開に踏み切ったところ、再び目が見えるようになりました。
このように妊娠中毒症における浮腫は重要な項目とされていましたが、20年ほど前から先ほどの説明のように浮腫だけなら問題ないことが分かり、2005年に妊娠中毒症という病名は、妊娠高血圧症候群、あるいは蛋白尿もあれば妊娠高血圧腎症となり、浮腫は項目から外されました。口がひん曲がりそうな長い病名で、患者さんに説明するのに苦労します。付き添いに来た妊婦さんのお母さんに説明するのにも妊娠中毒症と言った方がスンナリと分かってくれます。だから病名まで変えることもないのになあ、と思います。
浮腫のあるお母さんには、以前は塩分制限といった食事指導が行われてきましたが、極端な塩分制限はかえって腎臓に負担がかかるので1日8g程度なら良いと言われるようになりました。また、現在の日本の食事は欧米化されて、塩辛いおかずでご飯を何杯もお代わりすることは少なくなったので、あまりうるさく干渉する必要はなくなりました。
しかし、マレではありますが周産期心筋症といって命にかかわる病気もあるので、全身の浮腫と息苦しくて寝てられないといった心不全の兆候がある場合は要注意です。