院長ブログ カーブ

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第183回 忙酔敬語 昭和55年の札幌医大でのお産

近年、大学病院などの高次医療機関への受診は、紹介状がなければ受けつけられなくなりました。別にお高くとまっているわけではなく、本当に専門性のある患者さんの治療を優先するための処置で、当然のことだと思います。
昔はのんきなもので、札幌医大の附属病院は来る者はこばまずでした。しかし、新米の医師にとっては良い勉強になりました。軽症ならほとんど一人で任せられたからです。
当時、私は産婦人科に入局して2年目。1年目は婦人科で研修し、2年目は待望の産科勤務でした。現在のように研修医を経てから専門科を選択する必要はなく、いきなり産婦人科医になりました。ようするに、まさにぺいぺいでした。
その妊婦さんは里帰り分娩のために受診しました。初診の患者さんはまず1,2年目の新米医師の予診を受けます。それから教授、助教授(現、准教授)、講師といった偉い先生の新来へ回されます。ただし、この妊婦さんのようにあきらかに産科が担当と分かっていれば産科へ回されます。
その産科で待ち受けていたのは予診の役目を終えたこの私。
「やあ、またお目にかかりましたね。しかしまた、どうして当院にいらしたんですか?」
「家も近いし、大学病院ならレベルも高いし安心だからです」
妊婦さんは妊娠9か月。その後の経過は順調でした。
現在、当たり前のように使われている超音波装置はまだ出回ったばかり。病棟でお腹の中の赤ちゃんが無事に生きているかどうかなど宝物のように使われていました。しかし、その性能はさんさんたるもので、切迫早産で入院しているお腹の大きな妊婦さんを診察して、双子かどうか議論し、「赤ちゃんは1人だ」と結論したあげく、産まれてみればやっぱり双子だったという始末でした。
外来での赤ちゃんの成長は子宮底長を参考にしました。腹囲はお母さん自体による個人差が大きいのであまり参考になりません。子宮底長とは、恥骨から大きくなった子宮のてっぺんまでの長さです。赤ちゃんの大きさが一番問題になる妊娠9か月では、週数から3か4を引いた数が正常の目安です。すなわち妊娠33週では30㎝程度です。今では超音波診断で二千グラムちょっとと数字で推定できるので、母子手帳の子宮底や腹囲の欄は空白のままにする施設が増えています。
外来の妊婦さんの子宮底もこんな感じで、血圧その他まったく問題なし。しかし、不思議なご縁で、この妊婦さんの健診は分娩までずっと私1人で診ていました。もちろん異常があれば上の先生に報告しなければなりませんが、その必要はありませんでした。
そして陣痛のため入院。そのときの入院診察も当直医の私。分娩も私が担当し、退院診察も私がしました。そして1ヵ月健診も私でした。
「おかげさまで、良い体験ができました。本当にありがとうございました」
私も産科医冥利につき幸せを感じましたが、このお母さんは高度な医療を期待して大学病院を選択しました。しかし、担当した産科医はぺいぺいのオレだけ。こんなんで本当に良かったのかなあ、と複雑な気持ちになりました。しかし、私だけですべて取り仕切ったワケではなく、優秀な助産師さんが分娩介助をしたり保健指導をしたりして、バックには先輩医師が控えていました。新ママはそんな総合力を期待したんでしょうね、きっと。