院長ブログ カーブ

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第182回 忙酔敬語 キャサリン妃の退院

四十過ぎのお母さんが7人目の赤ちゃんを産んで3日目に退院しました。当院では経産婦さんは通常産後4日目、初産婦さんは5日目で退院します。このお母さんの場合、産道も無傷で経過は順調なので別に3日目でもかまいません。
「家に帰ったら誰か手伝いの人が来るんですか?」
家では1歳、3歳、6歳とおチビさんたちが待っています。頼りになりそうな子は10歳そこそこ。大丈夫かなあと心配になりました。
「いいえ、私一人で頑張ります」
もちろん、ご主人もときどき一緒に子供たちと妊婦健診に来てくれ、それなりにイクメンではありますが、自営業で忙しく、ズーッとつきっきりというワケにはいかない。
英国王室のキャサリン妃は産後1日もたたずに退院して話題となりましたが、私から言わせれば分娩室から豪華な病室に移動しただけのこと。宮殿ではナースやおつきの人々に取り巻かれて十分に休養がとれるはずです。でも、退院時に観衆や報道陣に笑顔で手を振ったり、ウィリアム王子がじきじきにハンドルを握って宮殿まで連れて行ったりして、尊い方なりに国民に気を使ってそれはそれで大変ではありますが‥‥‥。
「格差を感じちゃうなあ。このことをネタにブログを書いてもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
日本では少子化問題を取りざたされていますが、こんなにたくさんの赤ちゃんを産んでも行政の支援はまるでスズメの涙。フランスのように産めば産むほどメリットを感じさせるようでなければ今後も人口は減り続けるでしょう。ある自治体が2人目だか3人目だかの赤ちゃんを産んだ家族に100万円のお祝いをして、お父さんも思わぬご褒美に喜んでいましたが、その後の生活を考えるとその程度のお金はたちまち消えてしまいます。
お金だけの問題ではありません。ドイツでは一般にお産の翌日に退院です。そうとは知らずに陣痛で入院したとき、まるで海外旅行するかようにキャリーバッグにたくさんの荷物を詰め込んだ日本人の夫婦が、ほとんど何も使用することなく退院しました。退院後は担当の助産師が毎日訪問して、お母さんの状態を確認したり赤ちゃんの体重測定をしたりして、それはきめ細かいケアをしてくれたそうです。住宅事情にもよりますが、家の方がゆったりできそうですね。
札幌でも退院後に不安を感じるケースは、医療者側が保健センターに連絡して、保健師さんに訪問してもらいますが、ケースバイケースで、ドイツのようにくまなく行われてはいません。
蛇足ですが、ドイツは出生前検査についてのカウンセリングのシステムも充実していて、たとえ染色体異常の赤ちゃんを産むと決断しても全面的なバックアップを受けられるとのことです。日本ではそうした制度が充実していないので、新しいスクリーニングにひっかかった段階で、9割以上のカップルがギブアップしてしまうのは残念なことです。
こう書くと、何から何までドイツの方が優れていると思いがちですが、周産期死亡率や母胎死亡率と言った具体的な数字を見ると日本は世界最高水準です。報道番組はマスコミの担当者の思い込みも含まれているので、すべてを文字どおり受け止めるわけにもいきませんが、行政の血のかよった姿勢については、きちんと学んで参考にすべきだと思います。