院長ブログ カーブ

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第18回 忙酔敬語 骨盤内うっ血症候群

健康な人は血液がサラサラで、ドロドロだと不健康だといわれています。一般には悪玉コレステロールや中性脂肪が高い高脂血症が血液ドロドロと理解されているようですが、ふつうの検査ではひっかからない血液ドロドロ状態があります。それは研究所レベルの検査で、血液を細かいフィルターに通すことで分かります。血液がドロドロだと赤血球がフィルターに粘り着き、サラサラだとスムーズにフィルターを通り抜けます。高脂血症もたしかに血液ドロドロの原因になりますが、ストレスやうつ病でもドロドロになることがあります。男性では自覚症状はほとんどありませんが、女性では慢性の下腹部痛が生じます。これが骨盤内うっ血症候群です。
骨盤内うっ血症候群は、昔はテーラー症候群ともいわれていました。アメリカのコロンビア大学のテーラー教授が原因のはっきりしない女性の下腹部痛を研究しました。ストレスと関係があり、女性の心身症の代表的な疾患といわれてきました。西洋医学的な治療法は確立していませんが、最近になって骨盤内の静脈を機械的に拡張することで改善するという報告がありました。しかし、この治療法はごく一部の医療機関で行われているようで、産婦人科医の間でも「そんな治療法、聞いたこともないなあ」というのがほとんどです。私は問題は血液ドロドロにあるわけですから、見当違いな治療法だと考えています。保健も利かないのでお金もかかるし、かえって病状が悪化するのではないかと危惧しています。超音波検査でも異常がないため、子宮内膜症と診断されることもあります。私は骨盤の内側を押してみて、圧痛がないかどうかを確認して診断しています。女性の骨盤内の静脈は左の方が長く複雑になっているため、ほとんどの患者さんは左を押すと痛がります。
東洋医学では、血液の流れが滞っている状態を「お血」と表現し、様々な治療薬があります。「お」は「病だれ」の中に「於」を入れるのですが、私のワープロにはない字なのでひらがなで書きました。骨盤内うっ血症候群の患者さんは下腹部が痛いということで婦人科を受診するのですが、原因は血液ドロドロなので他にもいろいろな症状があります。まず顔色がまだらな感じでお化粧の乗りが悪く、唇の色もどす黒いので一目で見当がつきます。また、痛みはジッとしている方が強く、歩いていると気になりません。気のせいではなく、歩くと滞っているドロドロの血液も体を巡るからです。体の隅々まで血液が巡らないため肩こりや足の冷えといった症状も出てきます。生理痛も重くなります。
私が一番多く処方するのは桂枝茯苓丸です。1,2週間も飲めばたいていの患者さんは「おかげさまでラクになりました」と言ってくれます。桂枝茯苓丸が効かない患者さんには大黄という強力な生薬が入っている桃核承気湯や通導散を処方します。大黄は便を出す作用があるので下痢をすることがあります。こうした患者さんには桂枝茯苓丸にパエリアなどに使われるサフランを加えて処方したり、保険は利きませんが折衝飲という江戸時代の日本で作られた漢方薬を処方することもあります。
ほとんどの骨盤内うっ血症候群の患者さんはこのように漢方で改善しますが、うつ病などのストレスが原因になっている場合は、抗うつ薬を飲んだり問題となるストレスから解放されなければ症状は改善しません。これでも良くならない患者さんには次回に紹介する虫たちの力を借りることになります。