佐野理事長ブログ カーブ

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第179回 忙酔敬語 NHKアナウンサーの言葉の乱れ

最近、NHKのアナウンサーの言葉が気になってしかたがありません。
まずはわが業界用語の「出生前検査」。産婦人科学会では「しゅっしょうゼンけんさ」と言っているのに彼らは「しゅっしょうマエけんさ」と音と訓の「まぜ読み」を行っています。「まぜ読み」の代表格として「重箱」がありますが、本来「まぜ読み」はイケナイ行為でわざわざ「重箱読み」と例外視されているくらいです。
つぎはアクセントの問題。「台地」は子供の頃から「武蔵野台地(むさしのダいち)」のように「ダ」を高めに発音していました。それがいつのまにか「だいち」と平坦に間が抜けたような発音をするのです。「台地」の他にも平坦化された言葉はいくつもあります。 たとえば「織機」。久留米絣の紹介番組で、ナレーターは絣を織る器械を「しょっき」と平坦に発音していました。「あれっ、『ショッき』じゃなかったっけ?」と思いましたが、当の職人さんが「しょっき」と発音していたのでオレの記憶違いかと自信が揺らぎました。その数日後、患者さんで外国人に日本語を教えている方がいらしたので確認したところ、「先生のご指摘のとおりです。『しょっき』だと食器になります」と賛同してくれたので安心しました。
かと思えば反対に妙なアクセントをつけてくる場合もあります。赤ひげ大賞を受賞された下田憲先生のドキュメンタリー番組がありました。解説の女子アナは下田先生のことを「シもださん」と耳障りなアクセントをつけていました。私たちは日頃「しもだ」先生と平坦に呼んでいたので非常に異和感を覚えました。下田先生は長崎出身なので長崎では「シもだ」と発音しているのかもしれません。後日、下田先生にお会いしたときに確認してみました。下田先生は、「(女子アナの)○○ちゃんはね、ちょっと変わってて、そんな言い方をしたんだよ」とわが説を支持してくれました。下田先生は女性に甘いのでおとがめなしだったようです。
まだ気になることがあります。「何々するのです」とか「何々があるのです」を「するんです」とか「あるんです」とか、くだけた表現をすることです。番組の内容にもよりますが、NHKともあろうのもが、ちょっとくだけすぎかなと感じます。
以上、ふだんは北海道弁で会話をしている私が、NHKのアナウンサーの物言いをとやかく言う資格はないとは思いますが、どうしても気になるので発作的に書いてしまいました。回りの人たちに訊いても気にならない様子。私のこだわり過ぎでしょうか?
実は、私、この「こだわり」という言葉にもこだわりがあるのです。「こだわり」は「些細なことにとらわれること。拘泥」などとマイナスのイメージで使われてきました。それがいつのまにか「些細な点にまで気を配る。思い入れをする。『材料にこだわったパン』」(広辞苑第五版)などとプラスのイメージで使われるようになりました。「スープにこだわったラーメン」だなんて聞いていても虫ずが走る思いでしたが、NHKでも毎日のように使われ、こうして広辞苑にまで堂々と掲載されては降参するしかありません。しかも情けないことにだんだん慣れてしまいました。
時代が変われば言葉も変わります。ネットで調べてみたらアクセントも平坦化する傾向にあるようです。リンボウ先生こと林 望さんによると芭蕉の言葉も当時としてはヤンキー言葉だったそうです。単に私が時代に取り残されているだけなのかもしれません。